悪魔の囁き

Chet Baker - I'm a Fool To Want You, Stuttgart 1986.

チェット・ベイカーの歌声とトランペットの音をどう形容していいのか。ずっと考えるともなく考えていて、やっぱり、「悪魔の囁き」だと想い至った。究極の「優しさ」を演じる「悪魔の囁き」。そのためには、自分の心も言葉の意味も、がらんどう、空洞、空っぽ、にできければならない。要するに完璧な「フール」(fool)になれなければ、それは普通できない。チェット・ベイカーの空っぽぶりは尋常ではない。そこには人間の煩悩や欲望や絶望も希望も、心が抱える重荷、言葉にまつわりついた意味すべてが吸い込まれる。だから、慰められもする。そこに「死」や「鬱」の匂いはあるようでない。何も無い。無。その限りない「優しさ」、「悪魔の囁き」。


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