佐々木翁との会話

しゃがみ込んでカシワバアジサイ(柏葉紫陽花)をああでもないこうでもないと撮っていた。気がついたら我を忘れて息を止めて一、二分の間に数十回シャッターを押している。だめだ、まだよく撮れない。どんな草木の撮影も近頃はその繰り返しだ。我に返って深呼吸しながら振り返ると、自転車に乗った佐々木さんが笑っていた。何撮ってるの? ああ、カシワバアジサイです。そう。撮ってどうするの? 写真展にでも応募するの? いいえ、撮るだけです。へえ、と言いながら佐々木さんは納得していないのが分かる。後で名前とか特徴とか調べて、インターネットのブログに載せるんです。それが面白くて。なるほど、いい趣味だな、と言いながらまだ佐々木さんは納得していないのが分かる。腰の調子はどうですか? ダメだ。歩くのもキツくなってきた。そして佐々木さんはもう生きるのに疲れたと言い出した。この歳だしなあ、明日逝ってもおかしくない。塚本さん(故人)のところに早く行きたいよ。なんの希望もないと言いたいらしい。そんなこと言わないで、長生きしてくださいよ。ボクにとっては、いいモデルなんだから、と空しい言葉を口にしてしまったと後悔しつつ数枚撮らせてもらう。撮られることは、希望とは言えないだろうが、まんざらでもなさそうないい笑顔になった。またよろしく頼む、と意外な言葉を残して佐々木さんは自転車を漕いで行った。