手に馴染む写真集、グレゴリー・コルベール『羽は火へ』


 feather to fire - ashes and snow


大型書店の写真コーナーに並ぶ数多くの写真集の中でも一際異彩を放つ小さな写真集『羽は火へ(feather to fire)』。つい最近までこれがトロント出身のグレゴリー・コルベール(Gregory Colbert, born in 1960)の写真集であるとは知らなかった。しかも、彼が美術館の常識を覆すノマディック美術館を会場とするインスタレーション「灰と雪(Ashes and Snow)」で知られ、2007年に東京でも展覧会が開催されていたことすら知らなかった。生前の筑紫哲也との対談朝日新聞に掲載されたことも。だが、私にとっては、数年前から気になる写真集だった。書店で手にとってはその何とも言えない手触りに恍惚となった。カバーと本体に使われている紙の質感に心を奪われた。写真すらある意味でどうでもよかった。こんな紙でこんな風に写真集を作った奴に興味がわいた。そんなわけで、とうとうこの写真集を手に入れた。この写真集は 「灰と雪(Ashes and Snow)」にちなむ鳥と象のイメージを選んで編んだものである。しかし、実のところ、写真集を買ったというより、紙を買ったと言ったほうが実感に近い。コルベールの写真は非常にコンセプチュアルで、頭では分かるが、感覚的には違和感を覚える。分かるんだけどねえ。でも、ちょっと違うんじゃない。そんな言葉が口をついて出る。ところが、いつまでも触れていたい写真集なのだ。


造本に関して、ちょっと調べてみて驚いた。本体の印画にはファイン・アート紙の製造で六百年以上の歴史をもつイタリアのマニャーニ社 (Cartiere Magnani) 製の100%無酸紙 (acid-free paper) の Velata Biblos 紙が使われている。そしてカバーには手漉きのネパール紙 (handmade Nepalese paper) が使われ、自然の蜜蝋で表題が押印され、さらに結び用の紅茶染めの紐が竹で固定されている。道理で手に馴染むはずだ。


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