ロンドン・オリンピックのテレビ放映でロゴマークに使われている角張ってぎこちない書体が目に入るたびに違和感を抱く。アルファベットを追う視線はかつてない抵抗を覚えると同時に、その形状にはどこか可愛らしさも感じる。オリンピックのために2009年にギャレス・ハーグ(Gareth Hague)が設計した「2012 Headline」と名づけられたいわば冒険的な書体である。違和感の原因は、「Johnston(1913)やGill Sans(1930)以来の、曲線を多用することで、柔らかく流れるような「自然さ」を尊重してきた、いわゆる「イギリス風」書体の伝統を明らかに意図的に裏切る、角張って紆余曲折した「反自然な」デザインにある。2012 Headlineを稚拙で最悪の書体として酷評する向きもあるようだが、私の抱く違和感には相反する感情が同時に存在していて、そう単純には片付けられない。2012 Headlineは近い将来イギリス風書体の新たな伝統の出発点として位置づけられるかもしれない。