帰省した娘たちとピザを食べに行った。美味かった。ただその店のロゴの書体に微かにひっかかりを感じた。それはカリグラフィーの要素の強い書体だった。私のごとき素人でも、ちょっと調べてみれば、それは無償配布されているAdria DB Normalという書体であることはすぐに分かる。ただ、この書体がいつだれによってどんな思想にもとづいて設計されたかは不明である。
かつて朗文堂の片塩二郎氏が語ったエピソードが記憶の片隅に残っていたからか、イタリアンレストランなら、カリグラフィーの要素を排除したボドニ(Bodoni)の書体を使うのがデザイナーの常識だと思い込んでいたことが、かすかなひっかかりの原因だったようだ。
ミラノで十二年間修行したコックさんが、本格的なイタリアレストランを日本で開業する際に、日本のあるデザイナーにトータルなデザインを依頼したんです。デザインが仕上がってきて、それを見た瞬間にそのコックさんは「これじゃ、フレンチレストランだ。この字は使えない」と言ったそうです。その意味が、デザイナーにはわからなかった。このデザイナーはギャラモンという書体を使ったんです。ギャラモンは、ギャラモンというフランス人がつくった、フランスの伝統的な、まさにフランスを象徴する書体です。イタリアのイメージからは、遠い書体なんですね。一方、「GIORGIO ARMANI」など、ミラノのファッションブランドの多くのロゴに、ボドニという書体が使われています。ボドニはイタリア北部で生まれた書体で、これを見るとヨーロッパの人は「ああ、イタリアだな」と思うわけです。
『デザインの現場』1997年6月号, 28頁–30頁
だからといって、日本のイタリアンレストランのロゴにもかならずボドニの書体を使うべきだとは思わないし、特定の書体が継承する文化や歴史を敢えて切断するというアイデアもありうるだろう。某デザイナーがAdria DB Normalを使った理由を尋ねてみたい。縦太の要素はボドニを継承しているように感じるのだが、、。
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参照