表(テーブル)は罫線が少ないほど美しい‽

年末から年始にかけてある論文を書いているときに、自分で縦と横の罫線を引いて作った表にものすごく違和感を抱いた。色々と試行錯誤したが、違和感は解消しないまま、締め切りが来て、やむなくそのまま提出した。実は印刷会社の方でうまく修正してくれるだろうと甘い期待をしていた。しかし、戻ってきた校正刷りの表は私がワープロで作った表そのままだった。二回の校正をしているときにも、ずっと悩み続け、そもそも事象の分類に根本的な問題があるのではないかとまで考えたが、結局解消しなかった。

その後、書体や組版のことを調べ始め、色々と細々したことを気にして見るようになったせいか、ある時ふと日本語の本や雑誌に見られる表は基本的に私が作った表と同じであることに気づいた。つまり、縦と横の罫線がいわば律儀に全部引かれているのである。実際に三冊の本から典型的な表を挙げてみよう。これはあくまで組版上の問題であり、本の内容の評価とは全く関係ないことを念のためにお断りしておく。

そこで欧文の場合はどうなのか気になって、ちょうど手元にあったイギリスの組版バイブル『ハーツ・ルール』の邦訳『オックスフォード大学出版局の表記法と組版原則』とアメリカの『シカゴ・マニュアル』で調べてみた。驚いた。縦の罫線がない‽ 横の罫線も少ない‽ しかもすっきりしていて美しい‽ 『オックスフォード』では「タテけいはなるべく省略する。たとえ上と下のヨコけいは多くの場合、残されるとしても、そのほかのヨコけいは最小限に用いる」というルールが銘記されていた(174頁)。省略できるものは省略する。余分なものは削ぎ落とす。省略の美学とでも言えようか。これだったのかと思った。今までも多く目にしてきたはずなのに、ちゃんと認識していなかった。


『オックスフォード大学出版局の表記法と組版原則』175ページ


The Chicago Manual of Style 15th edition, p.503


The Chicago Manual of Style 15th edition, p.509

罫線をできるだけ使わない表がこんなに美しいとは。気づくのが遅すぎた。