足に翼を


 Michel Serres, Les cinq sens, Bernard Grasset, Paris, 1985


かつてフランスの哲学者ミシェル・セールは、歴史的証拠と自身の体験にもとづいて、日に十万歩は歩かなければ、人間は自分の肉体について本当には何も知らないままだと主張し、背中に大きな翼をくっつけた天使像は、人間の肉体に関する無知に由来する間違ったイメージに他ならず、翼を描くなら、足に描きなさいと強い調子で語った(‘Dessinez toujours les ailes sur les pieds.’, p.350)。かのヘルメスは足に翼を持っているのだとも(‘Hermès porte toujours les ailes aux pieds.’, p.353)。それを初めて読んだ若い時には納得できなかった。肩甲骨こそ翼の進化的痕跡ではないかとも空想していた。しかし、比較的最近、セールが言わんとしたことが、なんとなく分かるような気がしてきた。一日十万歩とはいかないが、一万歩は歩くようになったからかもしれない。


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