「海月」という名の定食屋


海月(かいげつ)。定食屋。中央区南7条西12丁目。


先日、南北に通じる西屯田通を中心軸にして、東西南北、往ったり来たりして、歩いているうちに、すっかり腹が空いて、手頃な食堂を探している時だった。白地に黒で「海月」(「くらげ」ではない。「かいげつ」と読む)と染め抜いた非常に潔い、個人的には暖簾のデザインとしても、「海月(かいげつ)」という言葉から浮かぶ、海上の空に見える月、あるいは海面に映る月影のイメージからも、非常に好ましい暖簾が目にとまって、迷わずその暖簾を潜った。引き戸は開け放してあった。間口は二間ほどだが、店内は奥行きがあり、かなり広く感じた。しかもカウンター席で仕切られた片方の空間、店内のほぼ半分を占めるほど広い空間が厨房であることに驚いた。客席からカウンター越しに厨房で忙しく動き回るご主人の海藤さんの姿がよく見えた。仕出し・折詰・弁当もやっている定食屋ならではの本格的な店内の作りだった。奥さんは厨房と客席の間を忙しく行き来していた。ご両人とも私より一回りぐらい年配である。カツ丼を注文した。同行した女房は天丼を注文した。どちらもとにかくウマかった。暖簾から直観した年季の入った確かな腕に間違いはなかった。後で女房が「しつこいぐらい、ウマい、ウマいって言いながら食べてたわよ」とあきれたように言った。暖簾を含めた店構えや店内の雰囲気から、まるで東京の下町にでも来ているかのような気分になったのが愉快だった。