羈旅



死をゆく旅―詩集


「羈旅」は古くは「羇旅」と書き、「きりょ」と読む。旅といえば、馬と道連れの旅であった時代を彷彿とさせる言葉だが、『万葉集』以来、「羇旅発思」は和歌・俳句の部立(ぶだて)、つまり分類の一つにもなっている。『万葉集』では巻11と巻12に見られる。岩波文庫版『万葉集(上巻)」の「万葉集概説」のなかで、佐々木信綱は「羇旅発思」について次のように説明している。

 羇旅発思 羇旅は家を離れて客たること、両字ともに、たびの意である。羇旅の字面は人麻呂の作その他にも見えるが、巻12のは、旅中で家や妻を思ふ歌で、単に旅中の自然を詠じたものではない。

 佐々木信綱編『万葉集(上巻)』(岩波文庫)27頁


しかし、山本博道の詩集『死をゆく旅』(花神社、1992年)を読みながら、特に最後の「羈旅」に至って思ったことは、「家」が帰るべき場所だとしても、所詮、仮の宿にすぎず、人は死ぬまで地上の客として、いつも本当は羇旅にあるということだった。そして詩人にとっては、詩の言葉だけが地上の仮の宿であるのかもしれないと。