「傷ついた天使」(1903) Hugo Simberg:365Films by Jonas Mekas

ジョナス・メカスによる365日映画、3月、79日目。


Day 79: Jonas Mekas

Tuesday March. 20th, 2007
4 min.

In Tampere, Finland,
as the Festival is
in full swing, the team
of the 365 Day Project
is working hard --

フィンランドタンペレ
映画祭はたけなわ、
365日プロジェクト・チームは
大忙し--

タンペレ映画祭シリーズ六日目。ホテルの一室で、この365日映画のための手書きのテロップの撮影をするメカスとベン・ノースオーバー。ベンはフィンランド放送のテレビの体操番組を見ながら体を動かしたりもしている。カメラは二度、明るい窓をとらえ、しばらく逆光の中で真っ白な画面が続く。普通ならカットしてしまいかねない映像をメカスはそのまま残す。明るい外光に目が眩み、目の前が一瞬真っ白になる体験を彼は記録に残す。

場面は変わって、タンペレ大聖堂(Tampere Cathedral)。フィンランド政府観光局もお薦めの観光スポットの一つで、「20世紀始めに建築されたフィンランドアール・ヌーヴォー様式の代表作品。教会内のヒューゴ・シンベリがデザインしたステンドグラスと天井のフレスコ画、マグヌス・エンケル(Magnus Enckell,1870- 1925)による聖歌隊席のステンドグラスと祭壇のフレスコ画が見所。」だという。また、多摩美術大学「北欧建築ゼミ」をやっている平山さんは、「ヘルシンキの北180km, 大都会タンペレに建つ大聖堂。ソンク(Lars Sonck,1870-1956) によるナショナルロマンティシズム建築の代表作品として知られています。1917年ロシアからの独立に至る民族意識が盛り上がった時期、建築的にも当時の最先端であったアールヌヴォーの影響を色濃く受けた建物と言えます。しかし当時一世を風靡したナショナルロマンティシズムも、擬古典のスタイルを脱却するには至っていない、過渡的なスタイルだったと言って良いのではないでしょうか。」と少し詳しく書いている。*1

ヒューゴ・シンベリ(Hugo Simberg 1873-1917)の「傷ついた天使」(Haavoittunut enkeli, 1903)。カメラが中央の天使にズームする。それから大聖堂内部の天井のフレスコ画をはじめ、ヒューゴ・シンベリの作品を次々と捉える。メカスは印象的な「蛇」のモチーフに注目する。

Googleで"Hugo Simberg"をイメージ検索すると、この「傷ついた天使」はじめ、彼の代表作が300件近くヒットする。3月16日ヘルシンキからタンペレに向かった際の映像とタンペレ映画祭でスピーチした映像の間に一瞬、謎の絵が映った。その時は調べがつかなかった。非常に印象的な光る湖面に浮かぶ二人の男が乗った舟の絵だった。それはこれだった。"Kuutamo(1897)"。"Moonlight"、「月光」という題名の絵。*2

chimaltovさんも書いているように、ヒューゴ・シンベリは「ガレン=カレラ(Akseli Gallen-Kallela)に師事している。象徴的な幻想画を描き、死をモティーフに、不気味な、霊的なものを表現した。忘れがたい、陰気な美。」同時代のノルウェームンク(Edvard Munch, 1863- 1944)の絵は「表現主義的」で、ヒューゴ・シンベリの絵は「象徴主義的」と一般的には説明されることが多いが、本質的には例えば「傷ついた天使」は一見何かの「象徴」であるかに見えて実は己の直截的な「表現」であり、逆にムンク「叫び」(1893)の方が一見分かりやすい「表現」に見えて、実は難解な「象徴」だったりする、のではないかと思う。

なお、フィンランド国立美術館(FINNISH NATIONAL GALLERY)でヒューゴ・シンベリの写真や絵をみることができる。

今日のフィルムのサウンドトラックは、おそらくフィンランドの作曲家シベリウス(Jean Sibelius, 1865- 1957)ピアノ曲ではないかと思うが、調べはついていない。

*1:建築家 関本竜太さんによる「フィンランドの建築」http://www.riotadesign.com/FA/Fin_Arch_main.htm参照。

*2:フィンランド語からの翻訳に使ったのはここhttp://efe.scape.net/index.php