有機的な外部記憶装置としての本 Giuseppe Zevola:365Films by Jonas Mekas

ジョナス・メカスによる365日映画、3月、81日目。


Day 81: Jonas Mekas
Thursday March. 22nd, 2007
4 min. 40 sec.

A video postcard
from Sebastian, member
of our team, at the
show of Giuseppe Zevola
Heike Kurze Gallery,
Vienna. With Pip &
his students.

我がチームのメンバー、
セバスチャンからのビデオ・レター、
ジュセッペ・ゼヴォラ展覧会が開催されている
ウィーンのハイケ・クルツェ・ギャラリー*1から、
パイプと彼の生徒たちも一緒。

白い壁の天井の高い明るい部屋には、ボレックスの16ミリカメラを持った若者や、すでに何度か登場したパイプ(Pip Chodorov, 1965-)の姿もある。そこがギャラリーとは思えないほど開放的な広い一室で、しかし、一人の髭面のオジさんが、周囲には誰も存在しないかのように、黙々とある種の儀式のような行為を、決められた手順に従うかのように、黙々と行っている。部屋の中央に置かれた大きな机の上で異様な雰囲気の本のある頁に火をつけて、他の頁に燃え移させたかと思うと、外光に照らされた出窓から地球儀を持ってきて、その燃える頁の焔の上にそれをドスンと置いて、消火する。この時点で、これは単なる展示ではなく、一種のインスタレーションだと分かる。彼は一旦扉の開け放たれた隣室に姿を消す。戻ってきた彼は今度は壁際に置かれた椅子の高い背もたれの上に開いた本を置き、壁に固定された試験管のような化学器具の中の物質をその上にかける。落ちそうだなと思っていたら案の定本は落っこちたが、彼はそれも予定通りといった風で全く動じない。最後に彼は開いたままの本を出窓に持って行き、日干しでもするかのように頁を捲っていたかと思うと、ある穴の開いた頁の裏側からその穴に左手を貫通させる。カメラは頁の穴から出てくる左手をクローズアップする。

どうも、その異様な本(コラージュ作品を製本したように見える)こそ彼の重要な作品であり、彼にとっての「有機的な外部記憶装置」のようだ。

途中、メカスの息子セバスチャンのカメラは、室内の白い壁や天井に展示された様々なタイプの作品をさっと一瞥するように撮ったり、同じようにカメラを構えるパイプと若者の姿を撮ったり、窓から向かいの建物と街路を撮ったりしている。メカスのような急な動きや震えはない。

髭面のオジさん、ジュセッペ・ゼヴォラ(Giuseppe Zevola, 1952-)は、イタリアのナポリ生まれのアーティストで、2月5日に登場したウィーン・アクショニズムの元祖ヘルマン・ニッチ(Hermann Nitsch,1938)や何度も登場したペーター・クーベルカ(Peter Kubelka, 1934-)、そしてもちろんメカスとの交流によって深い刺激を受けたことを自認し、テキストやイラストや写真などのコラージュ作品*2やデザイン、そして今日のフィルムで見られるようなハプニングの要素をもったインスタレーションなどで知られる。2005年の世界巡回展では、京都と東京にも来たようだが、ウェブ上に彼に関する日本語情報は皆無である。*3

彼のやや詳しい経歴については、公式サイトの「伝記(イタリア語)」がそっくりそのまま英訳されたものが英語版Wikipediaで読める。*4それによれば、画家であり哲学者であり詩人*5でもある彼の仕事の幅は非常に広く、イタリア各地で絵画や、知覚と視覚コミュニケーションを教えたり、ゴンブリッチ(Ernst Hans Josef Gombrich, 1909-2001) 監修の未邦訳"The Uses of Images"(1999)所収の"Pleasures of Boredom"(倦怠の快楽)を書いたり*6ハロウィーン号というヨットを生活の場所にしたり、から始まって、近年はイタリア中部にある聖なる森Bomarzoボマルツォ)を生活の場にして様々なプロジェクトを展開している。

*1:ウェブ上では日本語情報、英語情報は皆無。

*2:ウェブ上でイメージ検索しても、次の作品しか見られない。http://images.google.co.jp/images?num=30&hl=ja&safe=off&q=Giuseppe%20Zevola&btnG=Google+検索&lr=lang_ja&ie=UTF-8&oe=UTF-8&um=1&sa=N&tab=wi

*3:彼の「伝記」には京都工芸芸術大学における"Napoli chiama Kyoto 33 fotocollage per un libro, University of Art and Design, Kyoto, (novembre 2005)"の記述があるが、なぜか京都工芸芸術大学のサイトの「event バックナンバー一覧」には記録はない。

*4:ただし、"Naples Calls Kyoto: 33 Photocollages for a Book (University of Art and Design, Kyoto, October 2005)"の"October"は"November"の誤訳である。

*5:彼のブログhttp://www.positionplotting.com/diary/2007/02/test.htmlではアンソロジーのオフィスでジョルダーノ・ブルーノに捧げる詩を朗読するYouTubeの映像が見られる。

*6:ゴンブリッチの書誌データhttp://www.gombrich.co.uk/bibliography.php?start=1995&end=2005には、"Giuseppe Zevola"の記載はない。