狸小路正福屋のベビーカステーラ

家族と中心街に買い物に出た。途中家族とは別行動をとることになって、私は古いアーケード商店街の狸小路(たぬきこうじ)を歩いた。古物商に出回っているという噂を聞いた金属活字が目当てだったが、古物商自体がすでに存在しなかった。ある印鑑屋さんに立ち寄って尋ねたら、「うちでは廃棄しちゃったし、この辺にはもうないよ」と言われ、諦めた。


狸小路の中で唯一と言っていい往時の面影を色濃く残す中川商店(通称「中川ライター店」)。プラモデルからパイプから私にはついていけないジャンルのものまでマニアックな商品が所狭しと置いてある懐かしく楽しい店。店内を一通り物色した。


「ぱんぢゅう」と「ベビーカステーラ」が名物の正福屋で、東京ケーキよりも美味しいかもしれないベビーカステーラ(カステラではない。カステーラとのばさなくてはいけない)を買うために行列に並んだ。日本の街の景観を損ねているのは氾濫する看板や旗の文字だと思っているが、この文字が氾濫する正福屋の店先の場合は、書体からも手書き文字からも真っ当な商魂が伝わってきて、ほほえましくなるから不思議だ。私の他はみな中国からの旅行者だった。私の前の母娘は売り子さんに中国語で注文していた。売り子さんはさすが中国語にも慣れているようで、頷きながら「10個ですね」と日本語で念を押していた。私はちょっと迷ったが、ベビーカステーラはその名の通りとても小さくて1個10円だし、ついつい欲張って20個(200円)にした。店の様子をちょっとだけビデオ撮影した。




狸小路に直角に交差する市場がある。時間が時間なだけに、閑散としていた。




その後家族との待ち合わせまでまだ少し時間があったので、私はふとテレビ塔を間近で見たいと思って大通公園の東の端に向かった。テレビ塔直下の小樽の地ビールも飲めるミュンヘン風肉料理のレストラン、ライプシュパイゼ(LEIBSPEISE)*1エスプレッソ(200円)を飲んだ。そのとき香ばしい薫りがするなあと思ったら、厨房でドイツ人のスタッフがロースト中のチキンに岩塩をパラパラと振りかけているのが見えた。旨そうだった。外に出て、観光客に紛れてテレビ塔の真下から見える景色なんかを写真に撮ったりして遊んだ。私は気づいたら一観光客と化していた。料金700円の展望台には上らずに、塔の真下から大通公園が続く西方を逆光に手をかざしながらしばらく眺めた。



帰宅後、他の荷物と一緒になってしわくちゃになってしまった紙袋を恐る恐る覗くと大丈夫ベビーカステーラは潰れていなかった。美味かった。

*1:料理に肉という意味でLeibを使うのだろうかとちょっとひっかかった。普通はFleischだと思うが。