『PM』(1961)

ジュリアン・シュナーベル監督の映画『夜になるまえに』(2000)の日本版DVD(asin:B000N4RAU6)には、特典映像として非常に印象深いドキュメンタリー『PM』(1961)全篇が収録されている。これは本編『夜になるまえに』でもエンドクレジットの背景として一部抜粋して使用されている。

日本版DVDの「解説」にはこうある。

弱冠19歳のオルランドヒメネスがサバ・カブレラ=インファンテ(『三頭の淋しい虎』や『亡き王子のためのハバナ』で名高いカブレラ=インファンテの弟)と組んで、ニュース番組用に酷使されていた16ミリのハンド・カメラを使い、500ドルの費用で撮った25分の短篇。1960年末のある日の夕刻から、場末のバーやキャバレーをはしごしながら飲んだり踊ったり、喧嘩したり、やがて夜明けをハバナの対岸の町レグラで迎えるハバナ市民の一グループの後を追い、ビセンティコ・バルデスの「朝の歌」をエンディングに用いている筋書きのないドキュメンタリーだが、政府により上映禁止となった。その措置に数百人の作家・知識人・芸術家が抗議するが、結局、カストロによって<反革命的>と断罪され、その後、製作費用を出した新聞「革命」紙の文芸付録「月曜」も休刊に追い込まれる。この事件は芸術に対する最初の弾圧とみなされるが、『PM』は1963年、アンダーグラウンド映画の旗手ジョナス・メカスに実験映画祭で賞賛された。

1959年の革命の勝利からわずか一年後にはすでに「革命政府」による「自由」の弾圧は始まっていた。『PM』に記録された夜の時間を思い思いに自由に楽しむ人々の様子は<反革命的>とみなされたわけだ。見るたびに強く引き込まれるドキュメンタリーである。

見ようによっては、人々が自由に夜の街を行き交い、バーやキャバレーに出入りして、酒を飲んだり、踊ったり、歌ったり、喋ったり、喧嘩したりしているだけの映像である。あるいは屋台で好きなものを食べたり、カフェで何やら議論したり、一人でぽつんとしているだけの映像である。しかし、カメラが次々と捉えてゆく数多くの老若男女たちの姿からは人生の喜怒哀楽が痛いほどよく伝わって来る。そして全体として多様で猥雑な社会の健全な熱気のようなものがじわりと伝わって来る。それが国民を画一的に飼いならそうとしたカストロには気に食わなかったのだろう。

エンディングに使われているビセンティコ・バルデスの「朝の歌」は、夜明け前のまだ暗い街を背景にしてゾクゾクするほど素晴らしい。