ボケ酒作り1

ボケ(木瓜, Flowering Quince, Chaenomeles speciosa)は花は地味、果実は食用にならず、樹形も決して美しいとは言えないせいか、私の住む町内でもどちらかと言えば冷遇されている印象のある木だ。今朝の散歩では先週まではたくさん実をつけていた一本のボケの木が姿を消していた。根こそぎにされ、同じ長さに切りそろえられた幹や枝が積み重ねられているのを目撃した。散在する実をいくつか拾ってきた。

町内で庭にボケを植えているお宅の主人に出会うたびに、ボケの話をする。ボケ酒のことを知っている人は今まで一人もいなかった。私はid:mmploさんの受け売りで、「僕も最近まで知らなかったんですが、カリン酒と並ぶ二大果実酒なんですよ。果実酒の王様ですよ(ちょっと大げさ)。」などと話す。すると決まって「何に効くの?」と効能を訊かれる。「そりゃ、もう、疲労回復から整腸まで、いろいろです。かなり効くそうですよ。」と私はにわか仕込みの知識で答える。それでもみんなあまり関心を示さない。あっ、そう、といった感じである。それで、みんな欲しかったら持ってっていいよ、と言ってくれる。

小坂さんもそんな一人で、今朝ちょうどばったり出会ったので、ボケの実いいですか? と尋ねると、ああ、いいよ、どうぞ採って持ってってよ、と言ってくれた。私は風太郎を傍の木につないで、夢中になってボケの実を採取した。思ったより実の数は少なかった。でも、葉の繁った枝、細かい小さな棘がある、をかき分けるようにして中の方を覗いたときに、ちょっと歪なユーモラスな形の実が見えると心が踊った。右手の親指と人差し指と中指で摘んだときの固い感触、そして枝からもぎ取るときの軽い衝撃、掌に包んだたときの滑らかな感触に恍惚となった。幼い頃にかえったようだった。

そうやって手に入れたボケの実を、家に戻ってすぐに台所に直行して水洗いをし、それから食卓の上に新聞紙を広げて、その上にしばらく置いて乾燥させた。重さを測ってみたら、400グラム強しかなかった。中に表面が傷んでいるのが100グラムくらいあった。そこで、二つに分けて漬けることにした。約300グラムは長期熟成用(短くても六ヶ月から一年)に。傷んだ実は切り分けて、短期熟成用(二、三ヶ月)にした。量は少ないが、とにかく初めてのボケ酒作りに挑戦してみようと思ったのだった。これからまだボケの実は手に入りそうだし。