パトリック・ブラン(Patrick Blanc, 1953–)の垂直庭園

 Patrick Blanc's homepage

Casa BRUTUS NO.112 July 2009(MAGAZINE HOUSE)asin:B002B9UCW4 の環境をテーマにした特集で、フランスのパトリック・ブラン(Patrick Blanc, 1953–)という左手親指の爪を悪魔のように伸ばした怪しげな面白い男が取り上げられている。その肩書きは植物学者兼デザイナー。植物学者がいったい何をデザインするのかと思いきや、すぐに思い浮かぶ大庭園とか植物園などではなかった。なんと彼は自宅にプライベートな「ジャングル」を作り上げ、国内外の建築物の外壁や内壁に「垂直の庭」(Vertical Garden)を作ってきたのだ。それは、庭というものは屋外の地表に植物がインテリアの延長のごとく適度に配置されて水平に広がるものであるという常識に真っ向から挑み、根底から揺るがす概念である。彼の発想は、建築に植物を取り入れるという従来の消極的な発想とは全く逆に植物の空気と水を浄化する能力を最大限に引き出すエコシステムに合わせて建築を、つまりは人間の生活をデザインし直そう、そうすべきだという大胆なものである。彼が言い出した「垂直の庭」というコンセプトは、実際に「植物の壁」(Green Wall)、「生きた壁」(Living Wall)としてフランス国内外のあちらこちらで実現されている。

植物たちが繁茂するぶっとんだ彼の自宅の様子やフランス国内外の「垂直の庭」設計に関する活動を美しい映像で見ることができる。

The Private Jungles of Patrick Blanc


然し待てよ。欧米とはちがって、日本の建築はそもそもは植物素材だったではないか。見方によってはパトリックの「ジャングルの家」以上に洗練された「植物の家」をある時期までわれわれの祖先は当たり前のように作ってきたと言えるのではないか。茅葺き屋根、漆喰、襖、障子、等々。そう考えると、パトリック・ブランの試みは、たしかに現代日本の建築事情には新鮮な展望をもたらすかもしれないが、しかし、それを手放しで褒めたたえ、性急に飛びつくのはどうかと思い始めた。むしろ、身近な過去に埋もれかけた先人たちの知恵に学ぶことを忘れてはいけないのではないか。

ちなみに、私は今住む家をできるならすぐにでもパトリックの家のようにエコシステム化=ジャングル化してみたい方だが、カミさんは大反対だった。「ジョーダンじゃないわ」。蔦の絡まる家でさえ、生理的に受け付けないらしい。人生はいつも一筋縄、短期決戦というわけには行かない、、。


参照