日曜日の朝遅く





日曜日の朝遅く、いつものように散歩に出る。ほっとくと惨めで、荒(すさ)んだな気持ちになりかねないところを、いつものように空気の裂け目を探して歩く。乾いて埃っぽいアスファルトの上で野球に興じる三人の少年たちに出会う。声を掛けてカメラを向けると、警戒する鋭い目つきになって、無視される。得体の知れぬ大人に対する正しい態度だ。よしよし。しばらく行くと頭上からギュイーン、ギュイーンと波打つモーター音が降ってきた。見上げると歩道から高さ三メートル以上はある塀の上でフェンスから枝が飛び出した庭木を剪定している道井さんがいた。自宅ではない。そういえば、他の場所でも剪定している姿を見かけたことがあった。ボランティアで近隣のお年寄りのお宅の庭木や生け垣の剪定をやっているようだ。正確なところは分からないが、とにかく偉い。声をかけると、笑顔が返ってきた。いったん仕事の手を休めて、塀の上は幅が狭く、落っこちそうになるので、片手でフェンスをつかみながらの難作業だとぼやいていたが、またすぐに作業にもどった。「気をつけて!」の私の声はモーター音にかき消されて道井さんの耳には届かなかった。散歩の後半、いつもは閑散とした通りを行く人の数がやけに多いことに気づいた。祭りの時のようだ。道端で花にああでもないこうでもないとカメラを向けている背後を何人もの人が通り過ぎるのを背中で感じた。ムクゲの落花を撮影しているときだった。ふと顔をあげると見覚えのある姿が視界の隅に入った。原生林の管理人さんだった。杖をついてゆっくりゆっくりこちらに向かって歩いてくる。体がキツくなって散歩は止めたと言っていた矢先である。どうしたのか。コンビニの前で合流した。先日いただいたトマトのお礼を言う。今年は不作だ、とまたちょっとぼいてから、なるようにしかならん、と笑いながらコンビニに入って行った。そのときは買物に来たのかと思った。サフラン公園にも多くの子連れの若い父親や母親の姿が見られた。公園に隣接するトウモロコシ畑にある野菜直売所にも珍しく人だかりがしていた。おばさんたちの背中越しに今日の商品をチェックしていたら、中学校方面から歩いてきた上野さんの奥さんと目が合った。先日届けた孔雀仙人掌(クジャクサボテン)の第二弾の写真(http://d.hatena.ne.jp/elmikamino/20090725/p1)のお礼を言われた。ご主人と息子さんも一緒だった。そのときようやく気がついた。あ、そうか、三人で投票に行った帰りなんだ。今日が選挙の日であることを知らなかったわけではない。午後から投票に行くつもりでいた。だが、撮影に夢中になっていたせいで、選挙という現実は一時的に遠のいていた。息子さんといっても、立派な髭をたくわえた恰幅のいい、穏やかな雰囲気とにこやかな表情を絶やさない中にも頭の切れを感じさせるただ者ではない人である。彼が私の使っているカメラに興味を示したので、ついついカメラ談義になってしまった。当然のごとくペンも話題に上った。今度はもっといい写真を撮って届けることを約束した。投票会場の中学校体育館にさしかかると人通りはさらに増えた。車でやって来る人も多かった。ふと通りの反対側を見やると、そこにはパイプ椅子に腰掛けた制服&ヘルメット姿の小坂さんがいるではないか。「交通整理」という腕章をつけていた。「ご苦労様!かっこいいですね!」と声を掛けた。そこは普段から見通しが利かないために出会い頭の衝突事故がいつ起きても不思議ではない危険な交差点だった。小坂さんは誰に頼まれるでもなく、そこの交通整理係を率先して引き受けていたのである。偉い。先日いただいた著書『豊平峡やまびこの里』(http://d.hatena.ne.jp/elmikamino/20090825/p2)のお礼をいい、ブログでも紹介したことを伝えると、とても喜んでくれたが、俺はインターネットはやらんからなあ、とちょっと残念そうだった。記事を印刷して届けることを約束した。勢いで、記念撮影をした。小坂さんは「三上さん、写真なんか撮ってないで、ちゃんと投票に行きなさい」と野暮なことは言わなかった。制服とヘルメットは自前なのか。聞くのを忘れた。ちなみに、私は小坂さんにすべてにおいて負けている。髭の長さにおいてさえ。悔しい、、。頑張るぞ。