碁会所のオーナー、池田さん


小坂さん(左)と池田さん(右)


町内のご意見番、小坂さんの紹介で藻岩碁会所のオーナーの池田さんに会った。実は数日前に、小坂さんから、池田さんが本を処分したがっているからもらってやってくれないかと頼まれたのだった。池田さんは亡くなったご主人の蔵書のうち、主に植物関係の本を引き取ってくれる人を探していているということだった。小坂さんは、毎日植物の写真を撮って歩いている私に白羽の矢を立てたのである。アイツなら、快く引き取ってくれるだろう、と。しかし、誰しも、それなら、古本屋に売るか、地域の図書館に寄贈するのがいいのではないかと思うだろう。私もそう思って、最初はお断りした。ところが、小坂さんによれば、池田さんはそうはしたくない、本を大切にしてくれる知った人に譲りたいのだという。ドキッ、実は私には大量の蔵書を処分した暗い過去があることを小坂さんに告げた。しかし、小坂さんはその程度の暗い過去なら誰にでもある、問題ない、ととりあってくれない。とにかく、一度会って話してくれないか。そういうわけで、約束の時間に小坂さんを拾って車で一緒に碁会所に行った。藻岩碁会所はかつてはバス通りに面した古いアパートの一階にあった。一年ほど前に裏通りにある新しいマンションの一階に移った。喫煙室も完備する綺麗な碁会所だった。界隈の年配の男たちがすでに数組盤を睨んでいた。私たちがいる間には次々と客がやってきた。小坂さんは常連で、みな顔見知りのようだった。小坂さんはなんと五段の腕前だと初めて知った。次回は相手をしてもらう約束をした。池田さんは挨拶もそこそこに、立派な書棚の扉を開けて、自分も子供たちもここに来るお客さんたちも興味のない本ばかりなの。古いけど、もしよかったら、好きな本を選んでちょうだい、もらっていただけると助かるわ、と言った。分かりました、と返事はしたものの、私は目の前の大量の古い本の前でしばし呆然とした、、。亡くなったご主人の興味の範囲がかなり私と被っていた。若い頃には植物の研究者になりたかったらしい。しかし全く関係のない仕事に就いた。その分、趣味で植物に没頭した。高山植物を見るために登山もよくした。庭で色んなものを育てた。しかも何でも種から育てた人だった。等々。池田さんの話を聞きながら、今でも時々見るというコンパクトなハンドブックの類いを除いて、植物関係の古い図鑑や専門書を中心に棚から本を一冊ずつ抜き取りはじめた。池田さんは植物関係の他にも、これは? これも、と寺田寅彦全集や啄木全集や白居易も薦めてくれた。そうして、一通り選び終えてみると、全部で78冊だった。数回に分けて車に運んだ。何かお礼をしないわけにはいきません。とんでもない。もらっていただけるだけで助かるわ。横から小坂さんが口を出して、一回デートでもすりゃいいよ、とまぜっかえした。それは小坂さんの願望でしょ? 分かった? あらまあ、そうだったの? みんな笑った。池田さんはお酒は飲まないという。内心アレにしようと決めた。小坂さんにも何かお礼をと考えていた。酒は何が好きか聞いた。余計なことは考えるなと小坂さんは言ったが、帰りの車中でしつこく聞く私に、小坂さんは夏に豊平峡のアトリエ(「頓珍館の里」)に一度連れてってくれると有り難いんだが、足がないから、とポツリと言った。それはおやすいごようです。小坂さんは焼酎が好きなことをなんとか聞き出した。ちなみに、今朝の散歩の写真に写っている小坂さんが自宅前に建造中の2メートル余りの高さの雪山はやはりただの「山」ではなかった。「ウサギ」にする計画だという。なるほど。









帰宅後、本の掃除をした。すべての本がそれぞれを買った書店の包装紙で丁寧に覆われていた。丸善が多かった。買ってからの年月に見合った埃が、箱入りのものでも、天に、特に花布(はなぎれ)のちかくに溜まっていた。部屋の本棚には置くスペースがないので、とりあえず、床に並べて、記念撮影した。