残されたクリスマスオーナメント


今朝、解体進行中のアパート群を一通り見て回った。一昨日、生命線を引っこ抜くような電話線や電線を切断する工事が行われるのとほぼ同時に屋内の解体処理作業が開始した。すでに壁も天井も床板も断熱材も取り払らわれて骨組みだけになった部屋もあるが、埃まみれのタンスや戸棚が部屋の中に放置されたままの部屋もある。巨大なゴミ袋が外に積み重ねられていた。作業員たちは部屋の窓から廃材やガラスの破片をすこしずつまとめて外に落としていた。ドスン、ガシャン、という大音響とともに白っぽい埃がたち昇る。解体現場には建設現場とは対照的な音が響き渡り、重たい空気が立ち籠めていた。ある部屋の玄関上の窓枠に解体現場に相応しくない光を発するものが目にとまった。曇ったガラスの向こう側からそれは私のことを見ているような錯覚にとらわれた。小振りのクリスマスオーナメントだった。いつからそこにあったのだろうか。その部屋はずっと空き部屋だった。この土地に住み始めて、このアパート群の横を毎朝風太郎と一緒に散歩するようになったのは十年以上前だが、その部屋に誰かが住んでいた記憶はない。もっと昔に、私の知らない幼い子とその家族が住んでいた様子を思わず想像していた。なぜか、まだ若い母親が幼い娘と一緒にそれを作っている場面が浮んだ。