向平さんとの会話

少しくらい肌寒くても晴れた日にはTシャツ一枚で散歩に出ていたが、今朝はその上からフリースを着込んで、さらに小雨が降り始めたのでウィンドブレーカーを羽織った。予報では最高気温19℃、最低気温12℃。まだどこかにかすかに残っている夏の気分が吹き飛び、秋を通り越して、冬景色を想像して体の芯がちょっと引き締まる。アパート解体現場で立ち止まる。風が出てきた。帽子を飛ばされそうになる。馴染みの植物たちを次々と一瞥しながら藻岩神社まで歩く。境内からフェンス越しに、隣接する原生林の管理人さんこと苅谷さんちの畑を覗く。苅谷さんの姿は今朝も見なかった。離れた場所から武田さんち(T's Gallery)を撮る。黄色のBeetleは駐車スペースに納まってこちらにお尻を向けていた。帰り道、アパート解体現場を眺めていた向平(むかいだいら)さんと立ち話をする。「毎日、アパートの写真撮ってるようだね」「あ、はい、、。あるのがあたりまえのものがなくなるのは寂しいですね。二〇年くらいですか?」「ああ、もっとだな」向平さんがこの土地で暮らし始めた直後に建ったというそのアパート群は、三十年以上毎日そこにあった。それがなくなった。「あんたが撮ってる写真は、三十年後にはきっと貴重な記録になるな」「そうでしょうか、、」「ところで、チョウセンゴミシ、味わってみるかい?」「はい、ぜひ」向平さんに勧められるままに房から実を一個もいで口に入れた。甘酢っぱさというか甘塩っぱさの後に軽い苦さというか辛さが来る。初めて体験する複雑な味だ。神妙な顔つきになった私を見て、さも面白そうに「複雑な味だろう?」と向平さんは笑った。「確かに、五味子ですね」向平さんは私のカメラにも興味を示し、接写やズーム機能についていろいろと質問した。今までニコンのフィルム一眼を使っていたが、やっぱりこれからはデジタルだなあ、と繰り返していた。そのうち庭の中に案内され、珍しい高山植物たちを紹介してくれながら、今年はもう花は終わってしまったが、来年のもっと早い時期に勝手に入ってどんどん撮ってくれと言われた。エゾリンドウの花が目についた。他に「狂い咲き」だという、上向きの壺状の萼から白い花を咲かせているものや、イワキンバイらしき黄色の花が目についた。他にも、枝もたわわにたくさんの実をつけた林檎の木について、よく見ると一本の木に明らかに色とサイズの異なる二種の果実がなっているのは、なんと「富士」に「津軽」を接ぎ木したからだということを教えられた。感心した。「へー、凄いですね」「いやあ、趣味だよ」可笑しかったのは、向平さんにはもう大きくなったお孫さんが三人いるが、庭にはそれぞれの誕生を記念して植えた木があって、一番目は毎年剪定が大変だという松の木、二番目が枝垂桜、そしてこともあろうに三番目のお孫さんが生まれた時にはボケの木を植えたという。未だに三番目のお孫さんには、どうして私はボケなの、と詰問されると言って笑った。「でも、ボケ酒は果実酒の王様、最高ですよね」「そうなんだよ、黄金色になるんだ」「お孫さんも、そのうちボケの素晴らしさが分かりますよ」昨年私が作ったボケ酒はそろそろ飲み頃かもしれない(http://d.hatena.ne.jp/elmikamino/20090402/p2)。そう言えば、今年はmmpoloさんがボケ酒を作られたそうだ(http://d.hatena.ne.jp/mmpolo/20090920/1253425218)。





アパート解体現場。



チョウセンゴミシ(朝鮮五味子, Schisandra chinensis




エゾリンドウ(蝦夷竜胆、Gentiana triflora var. japonica




ホテイマンテマ(布袋マンテマ, Sea campion, Silene uniflora Bertol.



イワキンバイ(岩金梅, Potentilla dickinsii)か。



アカツメクサ(赤詰草, Red clover, Trifolium pratense




シオン(紫苑, Tatarian aster, Aster tataricus



マルハナバチ(小丸花蜂, Bumblebee, Bombus ardens)とマリーゴールド(千寿菊, Marigold, Tagetes patula



オオウバユリ(大姥百合, Giant lily, Cardiocrinum cordatum var.glehnii.