時の狭間6:函館、Love is Blue、青森








青森での仕事を終えて、次の仕事の拠点である函館に向かった。青森駅から津軽線津軽海峡線スーパー白鳥19号に乗って函館までの所要時間は約2時間。函館駅前の市電乗り場から宿のある五稜郭公園前まで路面電車に揺られた。函館は雨だった。翌朝も小雨模様。仕事の前に、五稜郭タワーに登り、道立函館美術館、函館市北洋資料館を訪ねた後、函館駅前のメインストリートから外れた裏道を歩いた。北洋資料館でエトピリカの剥製に出会えたことが嬉しかった。仕事の後には、青函連絡船の桟橋跡を歩き、記念館として保存されている摩周丸に乗り込み、函館山や旧市街が一望できる三階サロンでコーヒーを飲んだ。そこに置かれていた雑誌「てんとう虫」(2009年9月号、UCカード会員情報誌、→ バックナンバー)をぱらぱらと捲っていて、川本三郎の「焼肉屋のカルビスープ」というエッセイが目にとまった。川本氏が「筆一本の生活」をするようになった70年代後半、30代初めの頃のいい話だった。月に一度奥さんと近所の焼肉店に行くのが最高の贅沢だった頃の話である。ある時奥さんが寝込んでパニックに陥って氏が取った行動とその顛末が水彩画のようにソフトフォーカスで淡々と書かれていて気に入った。そのエピソードはこう締めくくられていた。「思い立っていつも行くその焼肉店に行ってみた。事情を説明するとおかみさんが、それならスープがいいと、あつあつのカルビスープを魔法瓶に入れてくれた。有難かった。店の中には有線放送だろう、ポール・モーリアの『恋は水色』が流れていた。あのふだんは馬鹿にしていた甘ったるい曲がその日は胸に沁みた」そう言えば、「恋は水色」(http://www.youtube.com/watch?v=p9FYD1dlw4E&feature=related)の「水(の)色」はブルー、青で、後にしてきた青森にもどこかでかすかにつながり、青森は水の森でもあるのかもしれない、そして、、と思いがけない想像力がはたらきはじめていた。市電で元町まで行き、函館山の麓の坂道を歩いた。函館は北海道の一部に違いないが、青森(本州)と見えない陸続きのような印象を受けた。函館と函館以外の北海道の土地の間に本当の「峡」があるような錯覚をおぼえた。もっとも、それは函館にかぎった話ではなく、小樽やその他の港町についても言えることかもしれない。港町は陸に向けた顔と海の向こうに向けた顔の二つの顔を持つようだ。それにしても、札幌から函館に向かうときに見える顔と、今回のように青森から函館に入ったときに受ける印象はまるきり違ったから面白い。