大連ふたたび










天津から渤海湾をひとっ飛びして大連に戻った。一時間かからない。距離は約五百キロ。ちょうど東京大阪間の距離感である。一週間ぶりに戻った大連では空き時間に歴史的建造物に囲まれた中山広場まで散歩した。往きは表通りの人民路を歩き、帰りは横道に入り、裏道を散策した。地元の生活の底辺に少しでも近づきたかった。横道に一歩足を踏み入れただけで、まるで空気が違う小路や路地がいくつもあった。懐かしい異臭が鼻腔を襲った。油の浮いた汚水の溜まったドブ(溝)があった。無造作に干された洗濯物が目につく。ランニングシャツ姿の目つきの鋭い男達がたむろしている。路地でボール遊びに興じる半裸の少年たちの目つきも鋭い。私が左掌に隠すように持つカメラに敏感に目を走らせる。試しにニコッと笑いかけたが、当然無視された。日本メーカーの高級車が二台横付けされた「温聲茶楼」という看板のかかった裏ぶれた店の窓から男たちの話し声と麻雀のパイをかき混ぜる音が聴こえた。大連はアカシア(正式にはニセアカシア、あるいはハリエンジュ)で有名だが、私の歩いた範囲ではアカシアの花は見なかった。その代わり、中山広場近くの或る通りに薄紅色の喇叭状の大きな花をたくさんつけた一本の街路樹が目にとまった。花弁がいくつか歩道に落ちていた。ふらりと入りたくなるような食堂がいくつもあったが、空腹ではなかった。気づいたら全身汗だくだった。通りかかったホテルの一階に入っているスターバックスで涼んだ。「ダブル・エスプレッソ、プリーズ」英語が通じる。どこかの便利店でビールを買おうと思った。一軒の商店の前を通りかかった。店外でボックスの冷水につけた缶ドリンクの番をしていたお婆さんが何か話しかけてきたが、意味不明だった。よく冷えてるよ、買ってかないかい、とでも言ったのだろうと想像した。だが、そのボックスにビールはなかった。「ビールない?」と日本語で聞くやいなや、若い女が店の中から出てきて、狭く細長い店内に案内された。彼女が指差す棚に青島ビールがあった。二缶買った。泊まっているホテルに近づくと、リヤカー付きの自転車が歩道にとめられていた。美しい形だと思った。その直後にあの乞食する翁に出会ったのだった。












表通り






















裏通り