先日、ある知人と長話していたときのことだった。彼はふと思い出したように、「亡くなったワンちゃん(風太郎のこと)の喪失感は癒えた?」と聞いた。「えっ? ソーシツカン?」 私の中で「ソーシツカン」という音が「喪失感」という言葉に繋がるのに数秒かかった。「う〜ん、癒えたと言えるかな。今でもトイレで用を足してふっと心が緩んだときなんかに思わず名前を口にすることがあるんだけど、もう悲しい気持ちにはならないな。知らず知らずのうちに風太郎にある意味で救われていたことがはっきり分かってきたからかな。特に放っておくと無闇に尖ってしまう自分の棘を吸収してくれていたことにね。今でも毎朝の散歩はできるだけ欠かさないようにしているんだけど、『風太郎がいなくなって寂しいねえ』と声をかけてくれる人がいるたびに『風太郎の代わりにカメラを持って歩いてるんです』なんて言い訳めいたことを言いながら、じつは自分が風太郎の代わりに散歩しているような気もするんだよね。よく分からないけどね」
- 作者: 宮本敬文
- 出版社/メーカー: マガジンハウス
- 発売日: 2010/11/25
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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そんな会話を交わしたせいか、帰宅途中に立ち寄った本屋でシェパード雑種犬のカバー写真が印象的なある本が目にとまって、思わず手に取って立ち読みした。青臭い文章だなとやや突き放す感じで読み進むうちに、何かに背中を押されるようにページを次々とめくっていた。そのうち風太郎の思い出がページの上に重なってきた。買ってしまった。帰宅後、一気に読み終えた。ウイスキーという名の犬の最期の場面には泣けてきた。