かつて詩人の辻征夫(つじゆきお、1939年–2000年)は「キリンナツバナ」という名の「この世の誰も知らない」花を同名の詩に詠った。
おれはおれでなっとくするまで
眺めているともいえないキリンナツバナ
この世の誰も知らないキリンナツバナ辻征夫「キリンナツバナ」
詩人でもあるらしい親しい囚人との面会に向かう道すがら、辺見庸の舌の上に「キリンナツバナ」ということばが落ちてくる。
・・・キリンナツバナ。なんだったっけ。歩きながら発音してみた。キリンナツバナ。するとキリンナツバナは胸に白くにじむ小さな花をぽっと咲かせるのだった。
「キリンナツバナ」は実在しない架空の花の名前にすぎないわけではない。それは人の「胸に白くにじむ小さな花をぽっと咲かせ」ることもある。辺見庸は、ことば一個が死よりも大事なときがある、と示唆している。それは詩人にかぎった話ではないだろう。
ところで、辺見庸は最近になって辻征夫の「キリンナツバナ」を知ったこと、そして辻征夫が「バートルビー」(メルヴィル)に興味をもっていたことも最近になって知ったことを、迂闊だったとブログに書いている。
バートルビー―偶然性について [附]ハーマン・メルヴィル『バートルビー』
- 作者: ジョルジョアガンベン,Giorgio Agamben,高桑和巳
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