キリンナツバナの謎


以前、辺見庸の「だれも知らない花」と題したエッセイに登場する謎の花キリンナツバナは辻征夫の詩篇「キリンナツバナ」に由来することを見た。それは単に架空の植物の名前ではなく、詩と呼ばれる精神のいわば曠野に「存在」する植物の名前である、と。ただし、実はキリンナツバナの「存在」のはじまりは、辻征夫の詩においてではなかった。それは国井克彦の作品「旅の報告」にまで遡る。辻征夫の「キリンナツバナ」には次のような注が付されている。

二行目の小さな白い形状と最終行は国井克彦の作品「旅の報告」から。無断借用を謝し、この一篇を国井に呈す。


最終行は「この世のだれも知らないキリンナツバナ」である。つまり、辻井征夫は国井克彦の作品から「小さな白い形状」の花をつける「この世のだれも知らないキリンナツバナ」を「詩的」に継承した。ところが、国井克彦の「旅の報告」が見つからない。すぐに探し出せると高を括っていたが、未だに見つけられないでいる。


ところで、辻征夫の「キリンナツバナ」の初出は『現代詩手帖』1979年11月号であった。しかし、辻征夫の生前は未刊詩篇のひとつだった。『辻征夫詩集成』(書肆山田、1996年)にも未収録であった。『辻征夫詩集成 新版』(書肆山田、2003年)に初めて収録された。私はコピーを切り抜いて手帳に貼り付けて持ち歩いている。


追記。「キリンナツバナ」は『現代詩文庫78 辻征夫詩集』(思潮社、1982年)に収録されていました!