カカドゥ村の美しい集落




Quiet life―Cacadu village,eastern Cape,Republic of South Africa



p.12


本書には前田春人氏が1992年から2000年にかけて南アフリカ共和国の旧トランスカイ・ホームランドにあるカカドゥ(Cacadu)村を訪れ、村の暮らしの細部や村人の素顔などを自然光の下で非常に丁寧に優しく撮影した55枚の陰影に富んだ白黒写真が収められている。室内撮影でも頼りになる光は竃とランプと蝋燭の炎だけであった。しかし、物理的な暗さは「静かな」暮らしの心の豊かさを浮き彫りにしている。私が一番惹かれたのは、緩やかな傾斜地に同じ形の可愛らしい家々が点在する温もりのある風景である。ひとつひとつが宇宙ステーションを連想させるような円錐形の茅葺き屋根を帽子のように被った円柱の白壁の家。そんな家々が乾燥して痩せた土地の上に控え目に存在し、お互いにあくまで対等な関係でいい案配に配置されていると感じる。そんな風景にカカドゥ村の人たちの魂のふるさと、精神の深い形のようなものを垣間みる思いがした。前田春人氏がカカドゥ村を訪ねた季節はいつも春だったようで、オーソニガラムの花は咲いているが、ジャカランダの木の花はまだ咲いていない。いつか、ジャカランダの紫色の花が満開の季節に集落を撮影したカラー写真を見てみたいものだ。



集落の教え100


原広司の『集落の教え100』には南アフリカの集落の例は載っていないが、同じような雰囲気の集落は西アフリカのサバンナ、そして少し意外だったが、ネパールのヒマラヤ山脈を望む谷底に位置する集落に見られる。


参照


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