水道水


雪かきで一汗かいた後にコップ一杯の水道水を飲む。ふと昔観た映画の一場面が蘇る。仕事を終え、待つ人のいない古いアパートに帰ってきた男は鞄を居間のソファに放り投げ、狭く雑然とした台所に入る。コップを右手に持って、左手で水道の蛇口をひねり、間を置かずに、水道管に溜まっていたぬるいはずの水でコップを満たし、ゆっくり飲み干す。やっと一息つけたかのように、すっと肩から背中の辺りの力が抜ける。コップを持ったままの右手の甲で唇を拭う。なぜ、男は水をしばらく流してから、少しでも新鮮な水を飲もうとしないのか。まるでその土地の汚れた血を味わっているかのようだった。