約束

散歩に着るジャンパーの内ポケットに一枚の写真が入ったままだ。もうひと月半になる。顔見知りのおばあさんに手渡すつもりの鷽(うそ)の写真である。病気の後遺症のせいか、会うたびにおばあさんは徐々に声を失っていった。最後に会ったのは、町がまだ根雪に覆われていた三月の中頃だった。すでに言葉を交わすことはできなかったが、その代わり、おばあさんとは手で会話したのだった。手話ではない。もっとダイレクトに、手で触れ合ったり、手を握りしめ合ったりしたのだった。その時私は鷽を初めて撮って嬉しかったことを話し、今度会った時にその写真を渡すことも約束したつもりだった。おばあさんの目が一瞬輝いた気がしたのは錯覚だったろうか。あれからもうひと月半になる。