明るい広場の縁にさまよい出た男の前に赤いコートを着た見覚えのある女が忽然と現れた。女は懐かしい眼差しを男に向けたまま、穏やかな口調で語りはじめた。あなたはまだ何も分かっていないようね。ここから逃げ出せると思っている。図星でしょ?でも、それがそもそも間違っていることに気づいていないのよ、あなたは。女の言葉の意味を理解しようとして男は混乱し軽い眩暈に襲われた。その時、子供の歓声が広場に響き渡った。広場の中心にある噴水の傍で幼い兄弟が水と戯れていた。男はふらふらと覚束ない足取りで噴水の傍までやって来たが、幼い兄弟は蜃気楼のように揺らめいて消えた。遠い谺が聞こえた気がした。振り向くと、女の姿もなかった。そして広場だと思っていた場所は見渡すかぎりの砂漠に変わっていた。