デュシャンの教え

相手が自分は褒められていると勘違いするほど優しく批判すること。このデュシャンの教えを全うすることは難しい。とにかく、すべてを受け入れることです、微笑みながら。この同じデュシャンの教えになると私には実行不可能に近い。美術談義、反美術談義に真剣にはなれなかったが、人生を一種のアートとして一番深いところから鍛え上げたデュシャンという男のセンスには見習いたいと学生のころから思っていた。作品やデザインは人生という全体から見れば、排泄物に近い。己という最大最後の排泄物をいかに美しく処理するか、できるかが、最大の勝負である、幼かった私は勝手にそんなメッセージをデュシャンから受け取っていた。
そんな頃から二〇年以上経て、「真実」は決して口にしてはいけない、「真実以上のこと」を常に口にしていなければならない、という教訓をいつの間にか身に付けている自分がいることに気づく。「真実プラスα」のαを言えないなら、何も言うな、といつからか私は自分に言い聞かせるようになった。そんな教訓をどこでだれから学んだのか、はっきりしない。多くの人の多くの言葉から私が勝手に引き出した「答え」だったような気がする。真実は過去に属し、αは未来に関わる。と、以上の言葉に籠められた「真実プラスα」のαはこれを読むであろう学生さんの未来に関わる。
今日は女房君とIJF(岩見沢ジャズフェスティバル)に行ってきました。三井グリーンランドに隣接した「キタオン」という国内屈指の規模の野外音楽堂で、午後1時から7時過ぎまで。同僚のファビオが林栄一ビッグバンド22名の一人としてソプラノサックスを熱演するのを観るのを楽しみにしていました。しかし残念なことに彼らの演奏中に限って俄雨が降り出したせいで、ステージ上で渦巻き上昇し始めた「気」はもう一歩のところで最後の集中力を欠きドラゴンボールとなって私の所までは届きませんでした。もちろん、すべての演奏を堪能しましたが、フェスティバルそのもののあり方に改善の余地がかなりあることを強く感じながら帰宅しました。