ある種の検索に関してmmpoloさんが教訓に満ちた報告をなさっている。
『mmpoloの日記』「画像検索」http://d.hatena.ne.jp/mmpolo/20061205/1165266256
mmpoloさんが語る写真だけがたよりの植物の同定の難しさは、私も「シラタマノキ」で散々経験したことだが、その自分の経験をちゃんと整理できていなかった。mmpoloさんの報告を読んで、自分の経験を少し整理できそうな気がした。
初めて見るものの正体を知りたいとき、人はまずその名前を知ろうとする。名前(言葉)が分からなければ、そのものの正体、つまり知識(言葉)に到達できないからである。ものの正体とは、名前をインデックスとした知識の塊であり、言葉つながりなのである。
名前を知るために、そのものの姿形を言葉(記述)にするか、イラストを描くか、写真を撮るかして、それらを手がかりに、知っている人を探す。mmpoloさんの場合はmixiで、私の場合はblogで、「誰か教えて」と助けを求めた。
すると、おそらく多くの場合、誰かが「これじゃないか」と「候補の名前」を知らせてくれる。たいてい写真も付けてくれる。mmpoloさんの場合も私の場合もそうだった。
「候補の名前」が分かった時点で、検索エンジンが使える。
(写真を直接入力できる「ホンモノの画像検索」は、現在のところ、以前紹介したLike.comのようにカテゴリーが一部の商品等に限られている。)
しかし、ここから始まる検索は、対象となるものに関する知識の体系との格闘の様相を帯びる。知らされた「候補の名前」から数多くの画像の比較検討を経て「正しい名前」に到達する道のりは険しかったりする。とりわけ生物の場合には、mmpoloさんの場合も私の場合も植物だったが、その気の遠くなるような多種多様性に見合った知識の世界、分類の世界に分け入らなければならない。
mmpoloさんの場合には運良く得た「候補の名前」は「アルスロロキアグランディフロラ」だった。
Googleでこの「アルスロロキアグランディフロラ」を検索したら、「グランディフロラ」がヒットした。
grandifloraというスペルで、学名の種小名のようだ。
学名はラテン語、リンネの考案した2命名法の属名+種小名で成り立っている。
grandifloraは種小名で、大きな花の意。
どうやらアルスロロキアが属名らしい。
これを検索するとヒットしない。
この検索第一段階で、すでに生物分類学の知識が駆使されている。それによって「アルスロロキアグランディフロラ」という一続きの呪文のような名前は「アルスロロキア/グランディフロラ」に分節化された。「グランディフロラ」のラテン語の種小名と知識は突き止められた。が、「アルスロロキア」はそのまま検索してもヒットしない。
そこでmmpoloさんは「アルスロロキア」をさらに分節化して試みた。が、やはりヒットしない。
はた、と考えたmmpoloさんは、この時点で最も有効な手がかりである「グランディフロラ」のラテン語の種小名に命運を託した。「grandiflora」をイメージ検索にかけたのである。
改めてgrandifloraでGoogleのイメージ検索にかけると、似た花がヒットした。
名前がアリストロキア・グランディフロラという。
スペルはAristolochia grandifloraだった。
ウマノスズクサ科ウマノスズクサ属の植物。
ここで、画像レベルで「似た花」を探し当てることができて、しかも「アリストロキア」がラテン語の属名「Aristolochia」であることも分かり、ついに「Aristolochia」を検索した。
これ(「Aristolochia」)を検索にかけるとアリストロキア属の植物の画像が出た。
A. grandifloraよりもA. elegansの方が似ている。
アリストロキア・エレガンスは日本名パイプカズラといい、園芸植物として栽培されている。ようやく同定できたようだ。画像検索は難しい。
こうして、「Aristolochia」属という似た仲間の植物の画像の中で「A. elegans」と呼ばれるものが、mmpoloさんが銀座一丁目で遭遇した初見の花に間違いないことがほぼ確かめられた。めでたし、めでたし。しかも、名前が「エレガンス」。mmpoloさんの探究、検索の姿勢、過程も「エレガント」だ。
蛇足ながら、私の「シラタマノキ」騒動でも同様だったが、未知の植物の名前を知るためにたどるステップは基本的に四段階である。
1 イメージ(写真)を手がかりに、知っている人を探す。
2 「候補の名前」をテキスト検索、イメージ検索にかける。
3 ヒットした画像を比較検討し、「似たもの」を探す。
4 「似たもの」の画像に付された名前が「正しい名前」であると判断する。
このような探究では、そもそも「正しい名前の付いた画像」が存在することを前提にしている。そして、無視できない重要なポイントは、検索エンジンを使った文字通りの「イメージ検索」自体は、mmpoloさんも私も嘆く「画像検索」の一部をなすにすぎない点である。つまり、画像に写っているものどうしが「似ていること」を判断するのは、mmpoloさんや私なのであって、検索エンジンが返してくれる画像には、「似ていること」に関する情報は付けられていない。