search or explore ?:retrievrの場合

知ってる人も多いと思うが、retrievr(レトリーバー)という「遊べる」Web 2.0的イメージ検索サービスがある。ただし、データベースはFlickrの画像のみである。

retrievrはスケッチと画像による検索が可能なのだが、スケッチ検索が「売り」である。スケッチはあなたが自分で描く。84色、4段階の太さのなかから好きなタッチを選んで好きにスケッチすればいい。試しに私は、愛犬の風太郎(犬種は偶然にもRetriever!)の姿を黄色でスケッチした。かなりへたくそだが、犬っぽくは見える。その結果はこうだった。

もう一つの画像検索こそ、私の興味の的なのだが、手元に画像がある場合はそれをアップロードするかウェブ上の画像の場合はそのURLを入力すればいい。試みに、「シラタマノキ」の写真をアップロードしてみた。その結果はこうだった。

ご覧のように、スケッチ検索の場合も画像検索の場合も、「検索」としては「使える」とはとても言えないが、意外な結果が想像を刺激するとは言える。「色」が大きな指標になっていることは一目瞭然だった。それもそのはず、retrievrを開発したSystem One社は最初から「検索search」というよりは「探索explore」を楽しむことを狙いにしているのだった。実際にSystem One社のChristian Langreiterさんは「概要(About retrievr)」で次のように告白している。

I see retrievr more as an "exploration" tool than as a "search" tool, and it seems to work very well for that.

「retrievrは『検索』というよりは『探索』だと思っている、探索にはかなり使えるんじゃないかな」というわけだ。

ちなみに、「概要(About retrievr)」には、retrievrの「検索」の仕組み、画像の「問い合わせ(query)」方法は、95年の論文(http://grail.cs.washington.edu/projects/query/)で発表されたアルゴリズム(要するに、画像の解像度に応じた色の係数を比較するものらしい)に基づいていること、そしてそれはすでにスタンドアローンの画像管理ソフト『imgSeek』(http://www.imgseek.net/)に実装されていることなどが書かれている。

私が面白いと思ったのは、retrievrの開発者たちはそもそも「画像」の文字通りの「検索」をあきらめている節があるところである。「画像を検索するなんて無理さ」という直観が彼らにはあって、だから、言葉としては「スケッチによる検索/画像による検索」と謳ってはいるけど、上の引用は、実は画像は検索するものじゃなくて、楽しみながら探索するものなんじゃないの、という控えめな宣言とも読めるような気がした。

そしてげんにretrievrは「探索」としては面白いと思う。意外な結果、意外過ぎる結果が新鮮であったりするからだ。

しかしながら、私としては、やはり植物の同定の場合など、画像を「検索」する必要に迫られる場合があることを忘れるわけにはいかないので、System One社には「検索」にも使えるようなレトリーバーにする努力をしてもらいたいなと勝手に思っている。撃ち落とした獲物が鴨だったはずなのに、色が似ているからといって、蛇をレトリーブ(回収)されたら、かなわない。

ところで、私の個人的な関心である「検索とは何か」、特に「画像の検索とは何か」を考えるという脈絡では、以前ラフスケッチした検索の三分類「能動/受動/無意識」の見方に対して、bookscannerさんが米国での"Taxonomy vs. Folksonomy"論争のなかで登場する検索の二分類"lateral search/cold search"の見方を巧みに重ねてくださって、
http://d.hatena.ne.jp/bookscanner/20061206/p1
一語では日本語にしにくい「ラテラル/コールド」の違いの軸の面白さを味わっていた矢先に、今度はretrievrで「検索/探索」の違いの軸に気づかされ、さらに面白くなってきたなと感じているわけです。

今のところ、画像をたよった検索がたどるプロセスに関するかぎり、私の理解では、「専門家による分類(Taxonomy)/不特定多数による分類(Folksonomy)」という分類の基本軸を考え併せると、候補をある程度絞り込むまでは、とにかく関係のありそうな証拠をつかむべく、聞き込み捜査のごとく「不特定多数による分類(Folksonomy)」などを頼った「ラテラル・サーチ」を行い、候補が絞り込まれた時点からは「専門家による分類(Taxonomy)」を頼った「しらみつぶし」的な「コールド・サーチ」を行うのが検索の基本的パターンであると言ってよいのではないかと思っています。