消火栓と水蛇

今朝の散歩では、生まれて初めて消火栓の表示板を見た気がした。

雪国ならではの消火栓表示板なのだろうか。目立ちゃいいという発想しか感じられない黄色のペンキが塗られた消火栓自体の上方3メートルくらいのところにある。今までちゃんと見ていなかった。円形の表示板を固定している細い鉄枠が描く曲線に眼を惹かれた。蛇のようだと感じた。

「消火栓」という名前にひっかかった。英語(米語)でFIRE HYDRANThydrantは給水栓一般を表すから、火事の消火専用の給水栓という意味である。日本語名「消火栓」から「水」が消えていることにひっかかっていたのだった。「火を消す」という目的行為を重視し、「火を消してくれる」原因の「水」が隠される。「水」と「火」は古来人間精神の深い動向の隠喩として機能してきたことを思い出した。

hydrantのhydrはhydroの異形で、ギリシャ語で「水」を意味するが、ギリシャ神話のhydra、Hercules に殺された九つの頭を持った水蛇を連想する。やはり「水」がらみである。一つの頭を切るとその跡に二つの頭を生じたというヒドラ、根絶しにくい害悪,ひとすじなわではいかない難問の喩えとしても使われる。

生命の源でもある「水」が生命、精神を脅かす悪をも意味するようになる経緯は興味深い。神話学、人類学、民俗学、文学、小説や詩においても、そのほか芸術、芸能においても、「水」と「火」を欠くことはできないだろう。人事の大半を「水」と「火」で説明できるような気が一瞬した。


藻岩山は雪に煙っていた。