冬の日、人生の改竄をしてはならない


昨日、同僚の石塚さんから『グラヌール NO.7』(石塚出版局 2007.2)が届いた。「高良勉特集」だった。

昨年9月29日に沖縄の詩人高良勉さんが札幌大学北方文化フォーラムにて「琉球独立論〜北海道を遠く望んで」という講演を行った。私は都合がつかず参加できなかったが、多くの方が高良勉さんの「非常に熱心で、力強い、そして刺激的な講演」*1に深く心動かされたようだった。講演後の小樽での懇親会も盛況だったようで、かけつけた詩人たちの朗読も行われたという。私はあの日9月29日の夕方高良勉さんと大学のエレベータで鉢合わせて、挨拶を交わしていた。その目つきと全身から発するオーラは普通ではないと感じた。そのときは、10月の奄美自由大学で再会することを約束して別れたのだった。再会したときの記録は10月14日「沖縄の詩人たちとの出会い:奄美自由大学体験記7」http://d.hatena.ne.jp/elmikamino/20061014/1160800386に書いた。

実は、『グラヌール NO.7』に一通り目を通しているとき、工藤正廣さん「"琉球王子"に寄せて」の文字が目に飛びこんできた。

そしてその第一行に目が釘付けになった。

冬の日、人生の改竄をしてはならない。(5頁)

昨年40年ぶりに訳書ロープシン『蒼ざめた馬 漆黒の馬』の改訂版が出たロシア語・ロシア文学の専門家工藤正廣さんは私の学生時代のロシア語の先生であっただけでなく、同郷の太宰治の心根につながる文学的水脈を世界視野で独自に切り開いてきた小説家でもあり、詩人でもある。

蒼ざめた馬 漆黒の馬

蒼ざめた馬 漆黒の馬

昨年暮れに、詩人吉増剛造さんを迎えてのやはりグラヌール主催の響宴で、十年以上ぶりに再会したとき、全く変わっていないことに私は驚いたのだった。「おお、三上、元気か?」という文字では伝わらない、東北の暖かい心のイントネーションを帯びた声は忘れない。そのときの工藤正廣さんとの再会をめぐっても以下にいろいろと書いた。

2006-12-24「日常紀行(travelogue)と人生の記録(lifelog)」http://d.hatena.ne.jp/elmikamino/20061224/1166980962
2006-12-24「"Nearly Stationary":吉増剛造さんの映画の秘密1」http://d.hatena.ne.jp/elmikamino/20061224/1166918188
2006-12-23「カエルヤに行った」http://d.hatena.ne.jp/elmikamino/20061223/1166877409
2006-12-22「北辺雑話」http://d.hatena.ne.jp/elmikamino/20061222/1166804385


『グラヌール NO.7』を手にするまで、工藤正廣さんが高良勉さんと会ったことを知らなかった。しかし、「冬の日、人生の改竄をしてはならない。」という己の覚悟や己の偽物性を映し出すための鏡のような言葉に、私は流石我が恩師は高良勉さんにちゃんと「出会った」んだな、と深く感動した。

*1:ジボー・マーク"Homelessness is Where the Art Is", p.17