「物の味方」Ariane Michel:365Films by Jonas Mekas

ジョナス・メカスによる365日映画、72日目。


Day 72: Jonas Mekas

Tuesday March. 13th, 2007
12 min.

Ariane Michel talks
about the sadness
of the melting
icebergs and her
film LES HOMMES.

アリアンヌ・ミシェル
融けゆく氷山の
悲しみと
映画『人間(Les Hommes, 2006)』
について語る。

アンソロジーのオフィスで、寛いだ雰囲気のなか、白ワインを飲み、時折チーズらしきもをつまみながら、フランスの映画監督アリアンヌ・ミシェル(Ariane Michel, 1973-)は、メカス、カメラに向かって、グリーンランドの氷河融解の実態とそこに生息する野生生物の悲劇について語る。メカスはそもそもグリーンランドのことをよく知らないようで、ミシェルに「グリーンランドはグリーンじゃないのよ。ホワイトよ。言ったでしょ?」なんて言われている。氷の棚が崩れ、氷山が生まれ、その氷山がどんどん融けて小さくなり、風で吹き流される。氷山の上で生活していた動物たちも流される。

アリアンヌ・ミシェルの公式サイトの解説によれば、映画Les Hommes(2006)を製作するために、ミシェルは極寒のグリーンランドを探検隊に同行して撮影した。映画評論家のJean-Pierre Rehmの評言によれば、アリアンヌ・ミシェルが敢行した撮影=冒険は、フランスの詩人フランシス・ポンジュ(Francis Ponge, 1899-1988)のように、「物の味方("le parti-pris des choses")」の精神に依っている、という。つまり、物の不透明さ、「古い語法(archaism)」、そして美しさに寄り添う詩的精神。映画に関しては動物映画としては二流かもしれないが、人間の痕跡をよりよく捕らえた映画である、と。

途中、アリアンヌの友人でフランスの歌手ジョルジュ・アンリ(georges henri guedj)が来訪し、アリアンヌと再会の抱擁。ジョルジュは2月25日に登場した画家でキュレーターのフォン(Phong Bui)と雑談する。そしてベン(Benn Northover)も参加し、メカスの音頭で五人で乾杯する。「映画に、音楽に、…氷山に!」というメカスの声。

アンリの膝の上のラップトップの画面にMYSPACE MUSICのアンリのページが表示され、彼の曲、"couer de taic"が流れる。アリアンヌがその曲を寸評している。「十代の物語ね。」「お前のための曲だよ、フォン」とメカスの冷やかす声。「この声好きだよ。セクシーだ。」とフォンの高い声。

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フランシス・ポンジュ詩集 (双書・20世紀の詩人)

フランシス・ポンジュ詩集 (双書・20世紀の詩人)

フランシス・ポンジュが出て来るとは思いも寄らなかったが、ウェブ上にはポンジュに関するまとまった日本語情報はない。断片的な情報ばかりである。その中でブログ『KAFKA』http://kafka-die.cocolog-nifty.com/blog/2006/05/__88c3.htmlにポンジュに言及した武満徹の言葉が引用してあった。孫引きする。

人間は、眼と耳とがほぼ同じ位置にあります。これは決して偶然ではなく、もし神というものがあるとすれば、神がそのように造ったんです。眼と耳。フランシス・ポンジュの言葉に、「眼と耳のこの狭い隔たりのなかに世界のすべてがある。」という言葉がありますが--音を聴く時--たぶん私は視覚的な人間だからでしょうが--視覚がいつも伴ってきます。そしてまた、眼で見た場合、それが聴感に作用する。しかもそれは別々のことではなく、常に互いに相乗してイマジネーションを活力あるものにしていると思うのです。
「武満徹 ─ Visions in Time」展 公式カタログ)