ジョナス・メカスによる365日映画、4月、91日目。
Day 91: Jonas Mekas
Sunday April. 1st, 2007
4 min. 55 sec.
In Torino, Kenneth
Anger guides us
through the magic
grounds; Nietzsche's
horse --
トリノ市内のカフェで白ワインを味わいながら、周囲に暖かい眼を向けるメカス。若く見える。古い映像のようだ。映像は切り替わり、トリノ市内のポー河河畔の芝生の上を歩く古い友の一人、ケネス・アンガーの姿*1。そこにメカスの、やはり若い声の朗読が重なる。
瞬間に、いくつかの断片が、離れ、再び結びつく。周囲をよく見ること。周囲を。古い友ほどいいものはない。古い友ほどいいものはない。
カメラが川面を捉える。ケネス・アンガーの声が聞こえ始める。河畔一帯を指差しながら、このスペースは踊りに使われた気がするんだ。ちょうどよい月明かりに照らされるんだよ。儀式に使われたはずだ。魔法円(Magic circle)とか踊りとかね。
カメラを回すメカス、そしてケネス・アンガーの他に、イタリア人の男性と通訳の女性がいる。四人は川を見渡せる場所に近付く。「これがポー河か。もう一つの河の名前は?」とメカス。女性がイタリア語で通訳している。「ドーラ、リターリア」と男性。「ドーラよ」と女性。「そうか、ここで二つの河が合流するんだ。このあたりは昔トリノの魔術活動の中心地だったんじゃないか」とメカス。カメラはゆっくり一回転しながら、河と河畔の様子を捉える。
ここで、メカスのニーチェに関する二つのナレーションが入る。先ずは有名な1889年1月3日のトリノでの逸話。御者に鞭打たれる馬を見たニーチェが馬に駆け寄ってその首を抱きしめながら泣き崩れ、昏倒し、家に運ばれた。意識が回復した後で、狂気の徴候を示す手紙を書いた。そして、その手紙の内のひとつで音楽家ペーター・ガスト(Peter Gast, 本名Heinrich Köselitz)への手紙から。「わがために新しき歌を。世界は絢爛として、天空隈なく悦びに満てり。」
場面は、聖骸布でも有名なトリノ大聖堂内のサン・シンドネ礼拝堂に変わる。賛美歌が流れる。
そして、最後の場面はどこかの牛舎。角の生えた牡牛の向こうに子どもの牛も見える。牡牛はトリノ市(Torino, Turin)の紋章であり、市のシンボルでもある。
*1:ケネス・アンガー(Kenneth Anger, 1927-)はハリウッドのスキャンダルを描いた著作「Hollywood Babylon」(1958)がフランス語でパリで出版され脚光を浴びたという興味深い経歴を持つ、アメリカのアンダーグランド前衛映像作家。「Hollywood Babylon」の英語版は1974年になってようやく出版された。彼の映画の独特の「虚飾」のテイストはYouTubeにアップされたビデオからも看取できる。彼の名は、思い出深いエントリー12-20 「Mekas launches a yearlong film-a-day series」で引用したwiredの記事の中に、365日映画の企画に協力してくれた畏友として登場した。