Every Day Is a New Day, Taylor Mead:365Films by Jonas Mekas

ジョナス・メカスによる365日映画、6月、165日目。


Day 165: Jonas Mekas
Thursday June 14th, 2007
7 min. 30 sec.

On First Avenue*1
we meet Taylor
Mead
, we decide to
have something
to eat at Lucien.

ファースト・アヴェニュー*2
テイラー・ミードに会う。
ルシアンで食事することにする。

夜のマンハッタン、イースト・ヴィレッジ、ファースト・アベニューの歩道を、杖をつきながら、覚束ない足取りでこちらに歩いてくるテイラー・ミード(Taylor Mead, 1924-)、82歳。こちらに気づき、手を小さく振る。その仕草が可愛らしい。ベン・ノースオーバーが丁重な挨拶をする。ミードはすでに出来上がってご機嫌の様子。いつでも、どこでも行くぞ、次はどうする?なんて言いながら、目線をカメラの背後に彷徨わせる。メカス一行は何度も登場したフレンチ・レストランのルシアンの前にいるようだ。エスカルゴが食べたいな。あるよ。でも今はちょっと混んでる。混み具合を確認しにいくベン。予約を入れたようだ。順番待ちの間、舗道で談笑するミード、ベン、メカス。ミードの口からは、ジョン・ケージ(John Cage, 1912-1992)アンディ・ウォーホル(Andy Warhol, 1928-1987)ジム・ジャームッシュ(Jim Jarmusch, 1953-)の名前が次々と飛び出す。ルシアンの店内で一行の談笑は続く。店を引ける直前、ミードが"every day is a new day in New York!"と言って乾杯の音頭をとる。メカスは、"every day is a new day!"をくり返す。店の外に出た一行。じゃあと小さく手を振って夜の街に消えるミード。首にはヘッドフォン。頭には浅いニット帽。お茶目で、粋で、可愛らしい、とても魅力的なお爺ちゃんだ。

"every day is a new day"といえば、ダイアナ・ロス(Diana Ross, 1944-)のアルバム・タイトル曲Every Day Is a New Dayを思い出す。歌詞(lyrics)はこちら

作家、詩人、俳優として60年代からニューヨークで最も愛され続けてきたイコンとまで評されるテイラー・ミードは一流のアンダーグラウンド映画スターとも言われる。私が知る俳優としてのテイラー・ミードは、ジム・ジャームッシュ(Jim Jarmusch,1953-)監督の『コーヒー&シガレッツ』(COFFEE AND CIGARETTES, 2003)の最後「シャンペン」にウィリアム・ライスとともに登場する。

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薄暗い武器庫で10分間の休憩時間に紙コップの不味いコーヒーを啜りながらとても粋で味のある会話を交わす貧しい労働者に扮した二人。「世界から忘れ去られた気分だ」と語りだすミード。「マーラー(Gustav Mahler, 1860-1911)の歌曲、この世で一番悲しい曲が聴こえてくる」と耳に手を当てる。コーヒーをシャンパンに見立てて、人生を祝福しようじゃないか、と促すミードを相手にしないライス。「人生を楽しめない奴だな、お前は」。「何に乾杯するんだ?」「そうだな20年代のパリ」「いや70年代のニューヨーク」……。わずか4分の作品だが、テイラー・ミードの魅力は余すところなく出ている。