論理学入門2007 第9回 述語論理の表現力と公理系

今回は述語論理の後半、『入門!論理学』でいうと、最終章の第6章「『すべて』と『存在する』の推論」の後半(218頁から243頁)に該当する内容の解説です。

前回お話ししたように、私たち人間は、よせばいいのに、無限を相手にして「すべて」とか、無限のなかから何かをピックアップして「存在」せしめたりします。そういういわばフライングすれすれの主張をも演繹的推論の体系の中に取り込むのが述語論理でした。今回はそんな述語論理のアクロバティックな表現力の豊かさを見ることを通して、現代論理学の標準的な体系の全体像に触れることになります。

野矢茂樹さんは次のように書いています(『入門!論理学』222頁 - 223頁)。

論理学の歴史はとても古くて、最初に論理学を体系だてて研究したのはアリストテレスでした。あるいはまた、ストア派の論理学などもありました。それに対して、私たちがこの本で見ているのは現代論理学で、その出発点はゴットロープ・フレーゲというドイツの哲学者・論理学者が1879年に出した『概念記法』という本にあります。

フレーゲ著作集〈1〉概念記法

フレーゲ著作集〈1〉概念記法

フレーゲが開拓した現代論理学は、それまでのアリストテレスの論理学やストア派の論理学を統一的に体系化するものでした。でも、それだけなら、部分的にはこれまでの論理学が扱っていたものだとも言えます。そして、実のところ、私たちがこの本で見てきた話題で、この多重量化に踏み込む前のところ(前回までのところ:三上)までは、統一的な仕方で体系化したのはフレーゲがはじめてだったとしても、部分的にはそれまでの論理学でも扱われていたような話題だったのです。だけど、多重量化はそうではありません。私たちは多重量化のところまで来てはじめて、現代論理学でしか扱えない話題に踏み込んだのです。ですから、フレーゲが開拓した現代論理学をひとことで言うならば、アリストテレスストア派の旧来の論理学を統一して体系化するとともに、さらに、多重量化というそれまでになかった新たなところに踏み込み、体系を拡大し、完成させたもの、と言えるでしょう。

そういうわけで、今回はまず述語論理ならではの多重量化表現の豊かさを見ることから始め、述語論理の体系の全体像をつかみ、最後に述語論理の意義や現代論理学の別の風景、20世紀に入ってから研究され始め、そして現在でも盛んに研究されている「様相論理」を少し眺めます。

講義の骨子です。

1多重量化
1.1全称と全称
1.2存在と存在
1.3全称と存在/存在と全称

2量化に関する公理
2.1全称量化の導入則(難)
2.2全称量化の除去則(易)
2.3存在量化の導入則(易)
2.4存在量化の除去則(超難)

3述語論理の公理系(まとめ)
3.1命題論理の公理
3.2量化に関する公理

4論理学の仕事(再び)
4.1健全性と完全性
4.2形式的アプローチ(公理系)
4.3内容的アプローチ(意味論)

5述語論理の位置づけ
5.1数学との関係
(1)述語論理の完全性
(2)数学(自然数論)の不完全性
5.2日常言語の論理との関係
(1)可能性と必然性
(2)様相論理