ジョナス・メカスによる365日映画、6月、171日目。
Day 171: Jonas Mekas
Wednesday June 20th, 2007
5 min. 35 sec.
Luxembourg,
Phil Glass plays to
my film CASSIS,
talks on phone --
会場の暗闇の中にスクリーンの光の窓が浮かび上がり、ピアノ、アコースティック・ギター、フルートによる静かな生演奏が始まる。スクリーンは窓から外の景色が見えるがごとくに見える。スクリーンは小さく写りはよくないが、目を凝らしていると、昼間の海、湾、入り江、半島が見えてくる。防波堤もあって、その先端に灯台が見えた。突然、夜景に切り替わり、灯台の回転する灯が見える。「Jonas Mekas」という文字が見えて、映画は終わり、演奏もフェードアウトする。拍手が沸き起こる。ピアノを演奏していたフィリップ・グラスが立ち上がり会釈する。若い男性のギタリストがフレームに入るが、暗くて顔は識別できない。フルート奏者はまったく写らない。
夜の街、狭い石畳の通りを行くメカス。独りのようだ。通りに面した店はもう閉まっている。数件のショーウィンドウの照明が歩道を照らす。星を象ったネオンサインが可愛い。とある街角でまだ営業しているMcDonald'sが見えたと思ったら、どこからともなく、フィリップ・グラスが携帯電話で話しながらこちらに向かって歩いてくる。話に夢中な様子でカメラ=メカスの前を通り過ぎる。どこか目的地へ向かって歩いていく。メカスはグラスの様子にちょっと笑って、その後を追いかける。歩調に合わせた掠れた口笛が聞こえる。明るい一角に近づく。あるレストランの前で立ち止まったグラスにメカスも追いつく。グラスは電話の相手に「お出でよ」と言っている。店の前には先着の知り合いらしき男女三人が談笑している。Restaurant Oriental。中華レストランのよう。隣のお店の小さな看板にBROKEN HEART CAFÉと読める。「ブロークン ハートだって」と笑う女の声。メカスも短く笑う。グラスは携帯電話で話し続けている。メカスは左手で扉を開けて店内に入る。ガラス窓越しにまだ携帯電話で話しているグラスを捉える。グラスはカメラに初めて気づいたかのように笑う。
前半は、2000年11月25-27日にルクセンブルクで催された「Glass meets Mekas: le programme」の最終日のコラボレーションのようだ。「カシス(CASSIS, 1966)」は4分半の短編。その最後の1分半くらいをかろうじて見たことになる。フィリップ・グラス・トリオの即興演奏は何て言ったらいいか、非常に有機的で素晴らしい。
映画「カシス」の題名は南仏の地中海に面した港町、漁村カシス(Cassis)からとられている。マルセイユのすぐそばの町。画家のマチスやデュフィなどが好んで描いた港として知られ、古代ギリシア・ローマ時代からの歴史も刻まれている。そして何より、南仏では珍しい白ワインの産地。ドメーヌ ラ フェルム ブランシュ「カシス」'04は美味しそうだ。
JONASMEKAS.COMでは、同じカシスで撮影されたClowning in Cassis(2 min. 44 sec.)を見ることができる。クレジットには次のように書かれている。
This was filmed in the summer of 1966 in Cassis. It is with Taylor Mead, Bernadette Lafont, Jean-Jacques Lebel, Noël Burch, and others, all having a great time.
テイラー・ミードは6月15日に登場したばかり。ベルナデット・ラフォンはフランスの女優。ジャン=ジャック・レベルは1月10日以来三度登場した。ノエル・バーチはフランスの映画批評家で、日本映画(小津や溝口)にも造詣が深い。