ジョナス・メカスによる365日映画、8月、228日目。
Day 228: Jonas Mekas
hursday, August 16th, 2007
6 min. 02 sec.
we are in Paris,
Hotel Ritz, hangout of
Marcel Proust--
(taping not
allowed)--
われわれはパリ、
ホテル・リッツにいる
マルセル・プルースト
行きつけのホテル…
(撮影は
許可されていない)…
エリック・サティ(Erik Satie, 1866-1925)のジムノペディ(Gymnopédies)が流れるホテル・リッツの豪華なレストランでテーブルについているメカス一行。撮影禁止状況下で、メカスはカメラを何で隠しているのか分からないが、レストランでのひと時を「盗み撮り」する。カメラはバッグにでも入れられて、メカスの胸元近くの、テーブルの端に置かれているようだ。時々レンズの方向を変えては、可能なかぎりレストランの様子や同行者の表情を撮ろうとしている。しかし制約が大きく、同行者の中には顔までちゃんと写らない、胸元までしか写らない人もいる。識別できたメンバーは、ベン・ノースオーバーとドミニク・ラッセル(Dominique Russell)の二人。残りの二人は不明。
会話はあまりなく、しかもよく聞き取れない。「とにかく高いな」、「バー・ヘミングウェイがあるぞ」とか他愛のない言葉が断片的に聞こえる。一行はワインでマルセル・プルーストに乾杯する。
メカス以外の人の存在は声で認知できるが、もの言わぬ物の存在は姿が写らなければ認知できない。盗み撮りという大きな制約の下で、メカスのカメラは物たちに寄り添った「視点」からテーブルの上の赤ワインの入ったグラス、氷の入ったグラス、ナッツの入った小さなボール、緑色の小さなポットに生けられた植物、そしてテーブルの高さから見えるレストランの内装の数々を捉えていて、興味深い。思うに、メカスのフィルムの一つの大きな特徴は、そのようなもの言わぬ物たちに寄り添うような視点にあるのだった。物たちの「現実(reality)」に柔らかく触れるような目。特殊な言語、メカスなら「映画言語(Language of Cinema)」と呼ぶであろう言語によって、物たちと内緒話でもしているようなカメラを介したコミュニケーション。それがメカスの映画の秘密かもしれない。
その場合の「もの言わぬ物たち」には、人間の無意識の言動も含まれる。言動の無意識の部分といったほうが適切かもしれない。しかもそこに現れる人間たちの良質な面というか点。プンクトゥム。それらを繋ぐ、あるいは重ねるようにしてメカスはカメラを回しながら生きていている。
後半、プルーストの『失われた時を求めて』(In Search of Lost Time, À la recherche du temps perdu, 1913-1927)の英語教材のようないただけない男の朗読の声が入る。
蛇足ながら、メカス一行が決して宿泊はしないはずのパリのホテル・リッツの宿泊料金は、スタンダード・ルームで一泊700から800ユーロ、1ユーロ155円として、11〜12万円である。また通常のランチが75ユーロだから1万円以上である。ちなみに、メカスがお気に入りのパリの宿は6月27日に登場した木賃宿のホテル・ルイジアナ(Hôtel La Louisiane)である。