Užupis:365Films by Jonas Mekas

ジョナス・メカスによる365日映画、11月4日、308日目。


Day 308: Jonas Mekas
Sunday, November 4th, 2007
4:24 min.

footage from ten
years ago -- In Uzupis
(Vilnius) we celebrate
Lithuania's
independence --

十年前の
未編集のフィルムから。
ウジュピス地区ビリニュス)で
われわれはリトアニア
独立を祝う。

悲痛な旋律の女性の歌声が流れる。故国リトアニアの首都ビリニュスの旧市街の中でも一際古い印象のウジュピスの町を行くメカス一行。太い煙突のようにも見える排気管が何本も粗大ゴミのように集めて置かれた何かの「境界」のような場所に到着した一行は、それらの排気管を思い思いのリズムで、ある者は用意してあったらしいバチで、他の者は素手で叩き始めた。一種の即興演奏が始まった。鉄製の鈴を手に持ち鳴らす者もいる。停車している車のトランクの蓋を素手で叩いている者もいる。時間が経つにつれて、演奏に参加するものが増えているようだ。タンバリンを叩く者、トロンボーンを排気管に接触させて吹く者もいる。そして最初遠巻きにその演奏を見守っているように見えた住民たちが演奏者たちに近づいてきた。赤ん坊を抱いた若い母親がクローズアップされる。建物の一つの窓からこちらを覗いている人影も見える。そこは周囲を廃墟に近い印象の石造りの建物に囲まれた、ちょっとした広場のように見えるが、寄せ集められた排気管が「壁」になって、「向こう側」に続く道を塞いでいるように見える。街路樹は葉をすっかり落として裸である。

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以下、Užupis(Wikipedia, version:1 August 2007)を抄訳しつつ今まで知らなかったウジュピスについて簡単にまとめておく。

現在のウジュピスはパリのモンパルナスに比較されるほど若い芸術家が多く住み、ギャラリーやアトリエや人気のカフェのある地区であるという。「ウジュピス」("Užupis")はリトアニア語で「川向こう」("on the other side of a river")を意味する。実際にウジュピスは地勢的にビリニュス市内ではヴィルニア川(Vilnia River)によって隔てられ孤立したその名の通りの「川向こう」の地区である。

もともとユダヤ人の町だったが、ホロコーストによってほとどんどのユダヤ人は殺され、後のソビエト時代には墓まで破壊された歴史を持つ。ホロコーストによって空き家になった家々は犯罪者、浮浪者、売春婦の住処になり、1990年のリトアニア独立まではビリニュス市内でもスラムのような見捨てられた地区だったようだ。それでも、否だからこそ、ソビエト時代から若い芸術家やボヘミアンが集う地区になったようだ。

面白いのは、1997年にウジュピスは「ウジュピス共和国」として独立宣言したということである。独立記念日は4月1日。大統領は詩人、音楽家、映画監督であるロマス・リレイキス(Romas Lileikis)、最初の「国家事業」はフランク・ザッパFrank Zappa, 1940-1993)の記念碑の作製であった。もちろん、憲法だってある。ちなみにその41条からなる憲法の第1条はこうである。「人はヴィルニア川のそばに住む権利を有すると同時に、ヴィルニア川は人のそばを流れる権利を有する」("Man has the right to live by the River Vilnia, while the River Vilnia has the right to flow by man.")。今まで何度も登場したビリニュスの前市長であるアルトゥーラス・ツォーカス(Artūras Zuokas, 1968-)はウジュピスに住み、共和国のイベントによく参加するという。