クレンスとメカスの接点:ジョナス・メカスによる365日映画の裏側

それにしても、リトアニアの首都ヴィリニュスに誕生したヨーロッパの新たな文化的拠点のひとつとして位置づけれたジョナス・メカス視覚芸術センター(Jonas Mekas Visual Arts Center)、そしてアラブ首長国連邦の首都アブダビ無人島に建設中のおそらく中東全域の文化的拠点たることが目論まれているはずの「幸福の島」(Saadiyat Island)建設といった大規模な文化事業そのものを、メカスはどう思っているのだろうか。

それらは、彼のこれまでの個人的、独立的な映像作家としての活動、そして映像作家組合(The Film-Makers' Cooperative)やアンソロジー・フィルム・アーカイブズ(Anthology Film Archives)といった非営利組織の運営とは明らかに一線を画すものである。要するにかなり大きな意思が働き桁外れの金が動いている。それは単に芸術作品のマーケットのレベルの話ではないし、昨今流行のアート・プロデュースといったイベント企画レベルの話でもなく、もっと大掛かりな政治と経済、民族と国家の諸問題もからんだ国際的な最も広義の「文化事業」というか「文化戦略」の話である。

そこで、世界の美術館を傘下に収めつつあるグッゲンハイム財団の動向に注目しないわけにはいかない。すでにベニス、ベルリン、ビルバオと、ヨーロッパに三つの拠点を設け、そしてアブダビにも、といった、まるで旧世界をフロンティアに定め、歴史の歯車を逆転させるかのような勢いは何を意味するのか。その動きを先導しているのは、グッゲンハイム財団の芸術部門のトップであるトーマス・クレンス(Thomas Krens, 1946-)である。

私のちょっとした関心はそんなクレンスとメカスの接点はどこにあり、彼らはそれぞれ何を狙い、あるいは共に何を狙っているのか、さらに彼らの背景には何かあるとしたらそれは何なのか、ということである。

ジョナス・メカス視覚芸術センターにしても、表向きはグッゲンハイムの名は出ていないが、トーマス・クレンスはメカスと共にリトアニア大統領と面会している(11月16日)。ということはクレンス=グッゲンハイムはすでにヨーロッパを北(リトアニア)から南(ベニス)まで、「文化事業的」に押さえ、次の一手アブダビに打ったことになる。ちなみに、合衆国内はニューヨーク、ラスベガスを押さえている。次にもしアジアに一手を打つとしたら、東京だろうか、上海だろうか、あるいは......。

(いつか、につづく)