活版印刷初体験記


以前からぽつりぽつりとアナウンスしている「活版印刷ワークショップ」の相談を兼ねて、酒井博史さんのお店「日章堂印房」にお邪魔して、活版印刷のミニ体験をさせていただいた。

ちょうど必要になった名刺作りも兼ねて、姓名「三上勝生」の明朝活字四文字を文選し、組版するところまでやらせていただいた。印刷に関しては、さすがに初体験の私には扱えない活版印刷機「Swan 75」を使用するので、現役で活版印刷のお仕事をなさっている博史さんのお母様にお忙しい中無理を言って、様々な圧力で試し刷りしていただいた。その熟練した手さばきに何度も感激した。


先ずは文選といって、店内の壁一面に引き戸式に何列も並ぶ活字棚から、一文字ずつ活字を拾った。敢えて、酒井さんには活字の場所を教えてくれるな、と頼んだはいいものの、たった四文字だけで、しかも部首順に並んでいるにもかかわらず、結構時間がかかってしまった。私本人は夢中で何度も棚を上から下まで楽しんで探していたので、あっという間だったのだが、なんと二〇分近くかかっていた。「銀河鉄道の夜」のジョバンニを思い出しながら「活字拾い」をした。至福の時だった。


次は組版といって、文選した文字を金属製のフレームの中にクワタ(?)という鉛の板で字間を調節しながら組む作業を行った。今回は単純に一文字分空けることにしたので、これはすぐにできた。

その組版をお母様に手渡し、試し刷りをお願いしたわけである。紙は直観で「出雲の和紙」を選んだ。活版印刷機の扱いは、以前「凹みとかすれ」(2008-02-07)で書いたように、活版印刷技術の核心に触れる部分でもあるので、興味津々だった。最終的には、凹みもかすれしない絶妙な圧力で印刷していただいた。見事だった。夢中だったので、写真を撮り忘れた。

凹みもかすれもない絶妙な仕上がりの一枚。

こうして刷り上がった「三上勝生」の四文字の美しいこと。一文字一文字が正に「活きている」。紙とインクが活字+技によって美しく深く交わったとでも言えばいいだろうか。印刷された文字を見て、眼が喜んでいるのを感じたのは初めてだった。数カ月前にはこのような貴重な体験ができるなどとは夢にも思わなかった。

これは敢えて圧力を高めて凹みを出していただいた一枚の裏面。

酒井親子からいろいろと伺った活版印刷を巡る興味深い話についてはいずれ改めて書くつもりである。とりあえず、今回私がこんな風に部分的に体験した「活字の源流」へと遡る旅を一人でも多くの人に味わってもらいたいと切に思う。「日章堂印房」にて三月中に開催予定の「第一回 活版印刷ワークショップ」へ向けて酒井さんとの相談は続いている。

酒井さんご本人のプロフィールと日章堂印房の歴史については下の「ジョブキタ連載インタビュー」の記事で。