第1回活版印刷ワークショップを見学して

本日午後、札幌市中央区南8条西9丁目に40年前からある日章堂印房で、酒井博史さん主催の第1回活版印刷ワークショップ「活字よ、こんにちは。」が予定通り開催された。私はなるべく邪魔にならないように、ときどき参加者の皆さんとおしゃべりしながら、写真を撮った。

私が開始時刻十五分前にお店に到着したときには、すでに参加者の皆さんは店内で酒井さんを囲んで談笑していた。前回同様に、お店の看板の上で鳩たちが出迎えてくれる。ワークショップは予定時刻に始まった。酒井さんお手製の、達筆の手書きの資料が配られた。味のある手書きの挿絵も入っている。それを使って先ずは非常に分かりやすい活版印刷レクチャーが行われた。鉛の活字だけでなく、普段仕事で使う樹脂版、木(コマ)、金属製の凸版、さらにはゴム版などの実物をひとつひとつ説明しながら皆さんに手渡して、酒井さんは活版印刷とはそもそも何かという説明から始めた。それから順に、活字の大きさ(号数)、書体、そして印刷の手順を店内を滑らかに移動しながら各道具の使い方も併せて丁寧に説明した。


そしていよいよ参加者の皆さんひとりひとりが活版印刷を体験する段になった。今回のテーマは名刺作り。希望する名刺のラフスケッチを元にして、必要な活字を棚からひとつひとつ拾う作業(文選)に入った。一番手のNさんがなかなか苦労してようやく文選を終えて組版に入るところで、二番手のIさんが文選に入り、Nさんが印刷を終えるころ、Iさんは組版に入り、そこで三番手のもうひとりのNさんが文選に入る、……というトコロテン式実習の展開である。酒井さんは工程全般にわたる配慮の行き届いたアドバイスを行い、お母様が組版と印刷の実際を手伝われていた。一番手のNさんが試し刷りされたご自分の名刺を手に取って「イーですねえ!」と喜びの声を上げたとき、心底よかったと思った。それからしばらくして私は事情があって和気あいあいと盛り上がるワークショップの場をおいとました。よかった、よかった、と思いながら。

酒井さんによる活版印刷レクチャーの様子のごく一部をビデオ撮影した。

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昨年暮れに、代々活版印刷を営む日章堂印房の三代目酒井博史さんの「北海道から活字鋳造の火が消えてしまう!」という絶望の声を聞きつけて、微力ながら何か力添えができないかと思いたった。

そして酒井さんが企画したワークショップのお知らせとそれに連動するような活版印刷およびその周辺の歴史や現状について調べて書くということを断続的に続けてきた。振り返れば、すでに昨年夏に港千尋『文字の母たち』を読んだことが私自身の活字への関心を改めて呼び覚ましていたということがあった。

年が明けると、期待に違わず酒井さんはワークショップの企画を立ち上げた。実際に活版印刷を体験して相談にのってもらいたいと打診を受けた。

仕事に追われてなかなか時間がとれないでいるうちに、活版印刷の大先輩、先輩にあたる方々から天の声のような励ましの連絡をいただいた。

そうして、ようやく時間がとれて、日章堂印房に伺って、活版印刷の実体験をした上で、酒井さんとワークショップについて相談をした。

その翌日に酒井さんは即座に行動に出た。第1回と第2回のワークショップの日程と内容が発表された。

それを受けて私はひとりでも多くの方に活版印刷の魅力、活版印刷を実体験することの意義を伝えようとして応援した。

そして今日を迎えたわけだった。私の力添えは一段落した。後は酒井さんの気持ちと取り組み方次第でワークショプは成長してゆくだろうと感じた。