声の中の人生。ビリー・ホリデイとマドレーヌ・ピロー

時々無性にビリー・ホリデイBillie Holiday, 1915–1959)の歌声を聴きたくなる。


YouTube - Billie Holiday - I'm A Fool To Want You, 03:22

この曲(邦題「恋は愚かというけれど」)には興味深いエピソードがある。

アメリカにいたとき、マドレーヌ・ピロー(Madeleine Peyroux, born 1974)という女性ジャズ歌手を知った。ビリー・ホリデイの再来といわれる声の持ち主だと聞いて、それは聴かないわけにはいかないと思って、迷わず当時出たばかりの Careless Love(Rounder, 2004)を買って聴いた。一曲目の "Dance Me to the End of Love" (Leonard Cohen) を聴いて驚いた。まるでビリー・ホリデイじゃないか。


YouTube - Madeleine Peyroux - Dance Me to the End of Love, 03:52

ところが、他の曲を聴いていくうちに、その印象は薄まって行った。当然と言えば、当然のこと。マドレーヌ・ピローはマドレーヌ・ピローだ。ビリー・ホリデイをお手本にして、あるスタイルを確立するまでは最初のステップにすぎなかった。マドレーヌがマドレーヌであるためには、その型を壊さなければならなかった。我が儘なリスナーの期待を裏切ることになっても、彼女は戦わなければならなかったのだ。ビリー・ホリデイという声の偶像と。しかし、その戦いは彼女の心と体を蝕んだ。デビュー・アルバムのDreamland(Atlantic, 1996)が出てから8年間公の場から姿を消した。そして、2004年、ちょうど私がアメリカに渡った年に彼女はカムバックした。その後の彼女は彼女らしい道を歩んでいる。