三上:そういうわけで、じゃあ、井戸君、あとお願いね。
井戸:はい、分かりました。三上先生のイメージフォーラム・フェスティバルの総括の話が長かったので、あまり時間はありませんが、三上ゼミのみんながチームとして何をやるか、ということですが、今までの話し合いの流れを整理すると、こんな感じです。
- まず、「起業」について勉強したいという提案がありました。
- また、「オリジナルの商品」を作りたいという提案もありました。
- 忘れるところでしたが、三上先生からの命令、いや提案で、何をやるにしても、「ドキュメンタリー制作」を並行して行うということになっています。
- それならば、「オリジナルの商品」を作ることを出発点にして「起業」についても学ぶ様子をドキュメントするのがいいのではないかという展望がひらけました。
- それに対して、社会人の先輩たちから、やれ! やれるもんならやってみろ! というエールをいただきました。「ドロップシッピング・サイト」の運営というアイデアもいただきました。
- それらを受けて話し合った結果、障碍の少なそうな「ドロップシッピング」から始めて、可能なら、そこに「オリジナル商品作り」を組み合わせていくのがいいのではないかという新たな展望がひらけました。少し先の課題として「特許」に関する勉強という案も込みです。
- そこで、まだ「ドロップシッピング」に決定したわけではありませんでしたが、とりあえず、「ドロップシッピング」の試みを各自検討してきて、次回具体的に何をどうするかを話し合おうということになりました。
以上が前回までの大まかな流れです。そして今日を迎えたわけですが、「ドロップシッピング」の具体案、あるいは代案など、みんなの意見を聞かせて下さい。
(全員が「ドロップシッピング」について調べてはみたものの、どうも気乗りがしない様子だった。前回は他に案がなく、三上先生のプッシュもあったので「ドロップシッピング」という案に飛びついてしまったが、どうも本当にやりたいことではないのではないか、という意見が全員から出た。じゃあ、本当は何をやりたいのかについて、振り出しに戻って話し合うことになった。)
井戸:司会進行の立場を離れて言わせてもらえば、僕は本当は株、株式のことをよく知りたいと思っています。世界経済の動向も気になるし、株ってそもそも何なのか。そして株価の動向によって、世の中が大きく動くのはどうしてなのか。その辺の仕組みをちゃんと知りたいし、実際に株をやってみたいとも思っています。皆はどうですか? 本当にやりたいことは何?
...
三上:前回は望遠鏡になる双眼鏡を作りたいって言ってたけど、いいよ、いいね。そうやって、どんどん、自分の興味、関心を出し合うといいね。まだまだ遠慮しあってるみたいだから。
矢野:そうなんです。前回休んだので、大きなことは言えませんが、まだお互いによく知らないということもあるし、気軽に意見を出しにくい空気がまだあると思います。それにこの時間帯だけでは、話し合いには十分じゃないと思います。例えば、三上ゼミ専用ホームページを作って、そこで意見を書き込み合えるようにするとか、スカイプを使って会議するとか、実際に会えなくても、話し合える時間を作るのがいいんじゃないでしょうか。
柿崎:賛成です。
三上:いいね、そうだね。実はね、近々第一回ゼミコンをやる予定でしたが、そういうことであれば、少し早めにやってもいいね。井戸君、後で皆の都合を聞いて日時調整して計画してください。私は金曜の夜がベストね。それから、皆に共通の空き時間を利用してこまめに集まってもいいんだよ。
井戸:分かりました。矢野君の意見にハッとさせられましたが、まずとにかくお互いによく知ることから始めるのがいいですね。すでに携帯電話とメールの連絡網が出来ているんですが、先生から僕、僕から皆という一方的な連絡網でしかなかったので、全員お互いに連絡がつくようにしましょう。それから、今日はもう時間がないので、皆、来週までに、本当にやりたいことについて意見をまとめてきて下さい。僕は株式です(笑)。先生、今回はこんなもんでいいでしょうか。
三上:いいよ。焦ることはないからね。じっくり構えて着実に進めばいいんだから。ここまでだって、すごい進歩だよ。それから、このビデオカメラを貸し出しますから、皆で遊びながらでいいから、撮る練習をして、ドキュメンタリーの具体案も出し合えるようにしといてね。イメージフォーラム・フェスティバルで観た『もここ』とか『合縁奇縁他生之縁 ここは山根四号組』はよかったなあ。
(皆、席を立って、お互いに近寄って、携帯アドレスを交換し始める。それがきっかけとなって、わいわいし始める。演習室の空気が和む。)
***
知らず知らずのうちに、私は学生たちに命令していたことに気づかされた。私の言動が彼らの本来の自発性を抑え込んでいた。受け身の姿勢から自発的な姿勢へ、と彼らに訴えながらも、実際には、こうしろ、ああしろ、と私は彼らに上から強制していたのだ。それに対する無意識の反抗がくすぶっていた。それが今日吹き出した。よかった。もちろん、教えるべきことや、躾けるべきことは多々ある。でも彼らの自発性を信頼すること。彼らは自分で育つ力を持っている。それを無闇に阻害しないこと。基本はあくまで適宜サポートすること。彼らのお陰で初心にかえることができた。