フランス式アッカンベー


金沢英之氏撮影(オリジナル→ http://strassbourg.up.seesaa.net/image/P1000108.JPG

「アッカンベー」部分拡大

「おならプー」部分拡大

金沢さんが知らせてくれたフランス中世のレリーフに見られる「アッカンベー」は、顔の表情と特徴的な掌の仕草にとどまらない、いわば「全身アッカンベー」であることに喜んでいた。なんと、「おならプー」と連動しているのだ。なぜかとても懐かしい感じがした。なぜだろうと思って調べてみたが、よく分からなかった。そんななかで、2歳の子が「フランス式アッカンベー」に近い仕草を見せるという母親の心温まる日記を読んだ。

2歳児という小ささからか、道行くおばちゃんや公園で出会う人たちから「ま〜かわいいねえ」と声をかけてもらえる状況には確かに悪い気はしない。しかし、先日家でテレビを見ていると、背中をとんとんするので振り向いたら、片方の鼻の穴にピーナッツを入れたままにこにこ笑う娘がいた。また別の日には小鼻を両手で握って鼻の穴を開いたり閉じたり。テレビで見たアザラシの顔アップのマネらしい。怒ったら白目をむいてあっかんべー、静かな所でおならプー。

デジタル「すぱいす」育児日記 http://spice.kumanichi.com/ikuji_n/2006/takan~65.htm

もちろん、まだ「あっかんべー」と「おならプー」を同時にこなすという荒技はマスターしていないようだが、時間の問題かもしれない。そう言えば、私の場合も、幼い頃、喧嘩相手に向かって、アッカンベーとおならプーを「時間差攻撃」のように用いた場面の記憶が微かに蘇ってくるような気がしてきた。「同時攻撃」は思いも寄らなかっただろうが。

古代インドの宇宙哲学や古代中国の世界創世神話に淵源し、中世の不動明王信仰や江戸の歌舞伎を経由して、一方では秋田のべらぼう凧などでユーモラスに翻案されたり、他方では現在でも幼児の仕草に単純化されて継承されているアッカンベーの文化的遺伝子(ミーム)の消息はさておき、「おならプー」の由来と意義、とりわけ「アッカンベー」との関係はどうなっているのだろうか。これが目下私が直面している問題である。

アッカンベーにおける舌を出す仕草は、ヨーガにおける呼吸法、身体の気の循環を宇宙のそれにチューニングする調息が深く関係していると言われるが、オナラは、呼吸器系ではないにしろ、消化器系の「呼吸」みたいなものであると考えることができる。だとすれば、上の口からだけでなく、下の口からも体内の気を吐き出さんとする仕草は、単なるアッカンベーよりも、さらに強力な宇宙的な力を表わしていると解釈できそうな気がする。杉浦康平は伝統的語法に則って「降摩力」ないしは「呪力」などと語っているが*1、要するに普段は忘れかけている本来宇宙的である身体が秘めた活力のことである。

そういうわけで、金沢さんがフランスの田舎町で目敏く見つけたレリーフのアッカンベーは世界最強のアッカンベーの一例であることは間違いなさそうである。

*1:杉浦康平『かたち誕生』