Where is my place

Ink-Keeper's Apprentice

Ink-Keeper's Apprentice

離婚した両親との関係、そして母方の祖母との関係が複雑に交錯する家庭環境の中で、経済的には恵まれていたために、12歳で一人暮らしを始めたキヨイは、15歳にならんとする頃に、父から突然カリフォルニア行きの打診を受けた。彼は大きな葛藤を抱えながら、その葛藤の根本的な原因と最終的な決断の根拠を求めて、先ずは「先生」こと野呂新平と実の兄のように慕う兄弟子の時田に相談した。先生はやや他人行儀にアメリカ行きを大いに薦め、時田は感情的に猛反対した。(第15章)

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キヨイが一番真意を尋ねたかったのは母だった。しかし、母は祖母の手前もあって、一人では会ってくれず、祖母の家で会うことになった。離婚自体、そして離婚後キヨイを祖母に預けた負い目もあって、祖母の前では、母はアメリカ行きはいい経験になるという一般論以上の本音を語ってくれようとしない。祖母は父を男としても人間としても信用できないという理由もあってアメリカ行きに反対する。祖母の反応を冷静に受け止め理解するほどにキヨイは聡明だったが、本音を語らない母には不満だった。

自分の息子が離婚した男(父)とアメリカに行くことをどう考えているのか。結局は母は自分のことをどう思っているのか。離婚後8歳で父に引き取られ、その後12歳で祖母に引き取られた自分を母はどう思っているのか。自分のいる場所をはっきりさせるためにも、キヨイは母の真意を知る必要があると感じていたに違いない。自分にはそれを知る権利があり、母にはそれを語る義務がある、と。しかし、その目的を果たせなかったキヨイは気持ちが定まらぬまま、ますます油絵とデッサンに我を忘れ、空手の練習にも精を出した。

キヨイはしばらく前からアパートの隣人久保田から空手を習っていた。ある日、キヨイは久保田に銀座の韓国料理店に誘われ、その席でアメリカ行きの機会が訪れたことを告げた。島国で井の中の蛙にならないためにも、チャンスがあるなら行くべきだと久保田はアメリカ行きを薦め、キヨイを大いに励ました。食事後、久保田はお祝いにとキヨイをあやしげなナイトクラブに誘う。そこでキヨイは大人の世界、久保田の裏の顔を垣間見ることになるが、ホステスがみなオカマであることに堪えきれず途中で店を出る。半ば放心状態で電車で浅草まで行き、気づいたら吉原で客引きにつかまり、ヤクザにからまれる。と、ちょうどそこに先生(野呂新平)が登場して、救われる。キヨイは先生の裏の顔も垣間見る。(第16章)