決心

Ink-Keeper's Apprentice

Ink-Keeper's Apprentice

15歳のキヨイは、なかなか決心がつかなかった。相談した先生(野呂新平)と久保田(アパートの隣人で柔道の師匠)はアメリカ行きを大いに推奨した。兄弟子の時田と祖母は反対した。母は祖母の前では賛成した。しかし、キヨイは母の本音は違うと思いたかった。キヨイはアメリカ行きの決心を母の本当の気持ちを知ることに委ねた。とはいえ、そこには湿った気持ちはなかった。人生の大きな岐路に立たされた15歳は、まるで骰子一擲のごとく、それに賭けた。

ある日の午後にキヨイは予告なく横浜に母を訪ねた。二人きりで話がしたかった。しかも、熟考の時間を与えずに、本音を聞き出そうとした。ところが、キヨイは母が見知らぬ男と仲睦まじく一緒にいるところに遭遇してしまい、二人の行動の一部始終を観察するはめに陥った。結局、キヨイは母と話をすることはできなかった。しかし、むしろその結果、彼の決心はついた。(第18章前半)

 母は36歳だったが、そんな歳には見えなかった。綺麗だった。求婚者が現れないと考えるのは愚かだった。母はあの男と結婚するつもりだろうか? おそらく祖母と僕、特に僕のことを考えて踏み出せないでいたのだろう。僕の授業料は高かった。アパート代も高かった。もし僕がいなくなれば、母は思い通りに生きられる。そうに違いない。
 僕は帰って父に手紙を書いた。一緒にアメリカに行く、と。(三上訳、p.134)