コンテストに出してるのかい?


今朝は、「めんこいねえのおばあさん」ちにグラジオラスと菊の写真を届けた。写真を入れた茶封筒を新聞受けに入れたその瞬間、あら、と声がしてドアが開いた。ご主人だった。すでにすっかり顔なじみで世間話をする仲である。ちょうど猫を病院に連れて行くところだった。さっそく封筒から写真を取り出し、よく撮れてるなあ、と喜んでくれた。おばあさんもニコニコ顔で家の奥から出てきて、会話に加わった。ご主人はお金を払うと言い出したが、いつものように、ただで撮らせてもらっているお礼ですから、と丁重にお断りした。しかし、それでは気が済まないと見えて、それじゃ、と言って、採れたてのトマトを持たせてくれた。「コンテストに出しているのかい?」と聞かれて、びっくりして、自分でも可笑しかった。お二人とは、別々に出会って親しく話をするようになった。半年以上経ってから、実は二人が夫婦だということを知った。そういうこともあるから面白い。

「めんこいねえのおばあさん」こと帆足(ほあし)さんちの前を通りかかるのは、散歩の後半、ちょうど眼がその日の光と空気の具合に慣れてくる頃で、しかも、お宅の前には目を奪われんばかりの多彩な色と多様な形の菊、ダリア、グラジオラスが次々を咲き誇っているので、光や距離やアングルのよい練習にもなっている。写真を撮る練習をさせてもらっているわけだ。勢い、接写が多くなっているのだが、差し上げたのは、ちょっと引いて花の全体像が写っている写真が主である。一枚だけグラジオラスのドアップの写真を入れたのだが、案の定、お二人ともすぐには上下左右が分からずに、写真をくるくる回して見ていた。ご主人は「んーん、いい色だ」という微妙な感想を漏らしていた。「すみません。今度はもっとちゃんとした写真を撮って、お持ちしますから」