用務員のおっちゃん

教員ではなく、学校用務員という職業に関心があるというひとりの学生との会話がきっかけとなり、いい本に出会うことができました。


私、用務員のおっちゃんです (小学館文庫)

私、用務員のおっちゃんです (小学館文庫)

 「かつては”小使いさん”と呼ばれ、学校内のあらゆる雑務を引き受けてきた縁の下の力持ち。そんな用務員の日常仕事や歴史を、もと新聞記者のおっちゃんが三年間の実体験を通して描いた、実録・用務員物語」(本書カバー紹介文より)


これは本当にいい本です。知らないことばかりで、何度も目を洗われたような気持ちになりました。私の世代ではたしかに「小使いさん」と呼ばれていたと記憶する学校用務員という職業の差別的歴史と現状の全体像を知ることができます。それは日本社会全体の歪みを映し出す鏡のような働きをします。「おっちゃん」こと著者の三浦隆夫氏は偶然にも私が卒業した高校の大先輩にあたるという事実をはじめ、三浦さんのその後の経歴に驚きました。35年間の京都新聞社の記者生活の後、浄土真宗のお坊さんを養成する学校に入ったかとおもいきや、卒業後は本物の学校用務員を3年間勤めあげたのです。その体験に基づき、戦前はいうまでもなく戦後もほとんどまとまった資料のない学校用務員という職業について可能な限り調べあげて書かれたのが本書です。国家の権力構造の一支柱としての学校教育システムがその中心からは切り捨てたつもりでもその周縁に抱え込まざるをない人間的、自然的「外部」を一手に引き受ける非権力的、非所有的存在(学校用務員)がそこに向けられる権力的差別の視線にまみれつつもシステムの弱点や隙間を痛快に逆照射し露呈させ、システムが切り捨てた部分を粛々とケアしたり、その隙間を逆手にとったりしていく姿が豊富な具体的エピソードを交えて非常に巧みに綴られています。もちろん、三浦さんにとってはある意味では余裕のある、第二、第三の人生で選択した職業ではありますが、学校用務員という職業に関心がある学生には生き方を考える上でもきっと役に立つ本だと思います。ただし、学校用務員という職業が置かれた状況は本書が出版された2000年以降、ますます厳しいものになりつつあります。ウェブ上でも、例えば下に挙げたリンク先を覗いてみるだけでも、その現状の一端を窺い知ることができると思います。


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